出題

在職時代、いわゆる「読書」は殆ど出来ない日々が永く続きました。仕事に必要なものを読むだけで手一杯だったのです。しかし、そんな生活の中で、夏休みには、専門外の新刊書を漁る時期がありました。入試には、大抵のところで国語が必修です。日本文学の教員は、文学部以外の国語入試問題も作らなければならず、専門分野に限定せず素材を探さなければなりません。教科書に採られている文章は不公平になるので使えず、1,2年のうちに出た本から探すことになります。勿論、文法的に正確な、論理的な文章で、短いまとまりの中で設問を作れる文章、政治的・思想的にひどく偏っていない、差別用語を含まない、地域や性別によって受け止め方に大きな差のない・・・そして、入試とはいえ、初めて読んでも面白い文章を選ぶのには、苦心しました。材料となる文章が決まれば、問題作成はほぼ済んだも同然です。

何人かの著名なエッセイストには、この作業の中で出会いました。読書人向けの文芸評論家の著作をこのために購入し、父から面白そうだから貸してくれ、と言われて困った(彼はびっしり書き込みをしながら読む習慣だった)こともありました。

日本古典で、文学専攻に限らない受験生用の問題文を探すのは、もっと難しい。学校文法はだいたい中古・中世初期の日本語をもとに作られているので、使える範囲は広くありません。室町期の作品を使おうとすると規格外の語法が続出するし、歴史文学は人名と人間関係の説明が必要になるし・・・近年、センター試験擬古物語がよく出されるのは、擬古文は、却って規範文法に沿っているからでしょう。

身内の若い者に、入試は出題と監督が大変なんで、受けるのがいちばん楽なんだよ、と言い聞かせているのですが、誰も納得しません。