グレープフルーツ

グレープフルーツの輸入が自由化されたのは、1971年のことです。それまでは超のつく高級果物でした。

我が家には、「◯◯屋のグレープフルーツ」という言い習わしがありました。亡父が現役時代に、日本橋に本店のある高級果物店へ、目上の方への病気見舞いを誂えに行った時の話です。1個¥500の品を詰め合わせにしようとしたが、数が足りない。ここにあるだけか、と訊いたところ、番頭が(明治生まれの父の語です。今なら売場主任というのでしょうか)、「そうですねえ、ない訳でもありませんが・・・」と言いながら、後ろ手で、¥450の山から1つずつ¥500の山に移す。後ろ手ですから客にはまる見えです。爾来、我が家ではごく最近まで、贈答用にこの店を使いませんでした。

あの言い習わしは、どういう場合に使ったかというと―ブランド名に迷わされるととんでもない目に遭う、物の売値にはさしたる根拠がない、上手に他人を誘導した所存でも相手にはばればれ等々、我が家ではいろんな局面で引用していました。

1967年に大型客船で1ヶ月、東南アジアを周航した時、毎朝、グレープフルーツ半個がデザートに出て、父は感激していました。産地で大量に積み込めば、贅沢品ではなかったのです。いま100均で売っているのを見ると、隔世の感があります。