日本軍兵士

吉田裕さんの『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実ー』(中公新書 2017)を読みました。昨夏の終戦記念日に買い、惨めで愚かな数字が並ぶのにやりきれなくなって中断していたのですが、2月8日から右翼の街宣車が騒ぐので、口直しに読み通す決心をしました。昨年度のアジア・太平洋賞、今年の新書大賞を受賞したそうです。

本書は、「アジア・太平洋戦争の長期化」と題する序の下に、1死にゆく兵士たち 2身体から見た戦争 3無残な死、その歴史的背景 の各章を立て、終章は「深く刻まれた「戦争の傷跡」」と題しています。さきの大戦が、人力馬力対機械力の戦いともいえ、後方支援・補給を無視した無謀な戦争であったことは、すでに言い古された感じもありますが、本書の特色は、兵士の身体を核に据えて問題を捉えるところにあります。戦時中だけでなく、戦後も社会問題になった、ヒロポン結核や水虫が、軍隊由来のものだとは、私は初めて知りました。

読みながら、明治憲法や軍部、政治組織に根ざす問題もさることながら、なぜ小心で謹直な日本人が、こんなにも愚かで粗暴な行為を、上から下まで積み重ねることになっていったのか、その精神構造や民族的伝統との関係、といった思想的問題は、これまで追究されてきたのだろうか、そこを把握しておかないと、今後も危ないのではないか、という不安が湧いてきました。

折しも、弊国の首相とその与党は、自衛隊員募集を徴兵と勘違いしているのではないか、もしくはとぼけたふりをして徴兵制への地均しを始めたのではないか、と思わせるような言動に出ています。自衛隊員募集は、公務員の採用と同じ。徴兵制を布くならともかく、人数が集まらないから憲法を改正する、という話にはなりません。