水菓子でも

児童虐待を防ぐのに地域でも協力して、といった結論で安直に結ぶルポには腹が立ちます。教育委員会児童相談所の職員(プロです!)が、自分たちの身を守るためにいたいけな子を犠牲にし、母親までもがDVを逃れるために幼い実の子を差し出していたのに、隣近所が何が出来るというのでしょうか。

以前、世田谷のマンション4階に住んでいた時、1階から、母親が次第に逆上する声と、子供の泣き声とが聞こえてきたことがありました。堪りかねて降りてみると、両隣の人たちもドアの前でおろおろしていました。呼び鈴を鳴らすと、室内はしんとなり、待っても応対はありません。その後転居したのか、再度そういう場面には出会いませんでした。

家庭は密室です。親子といえども1対1で向き合っていると、冷静さを失うことがあり、そうなると止まらなくなります。子供の方は逃げられません。介入するならごく早い段階で呼び鈴を押し、冷蔵庫にある水菓子でも何でもいいから、お裾分けなどという口実で割って入り、親の頭を冷やすくらいしか、隣人にできることはないと思います。児相に通報すれば、却って事態は悪くなるわけですから。

虐待死がある度に、児相は忙しすぎると言い訳する人たちにも、腹が立ちます。なら、早くそういう声を揚げるべきです。人数が足りないだけでなく、なぜ3~4年の経験者しかいないのか。いま忙しすぎるのは、介護、医療、教育、児童福祉など、いずれも人間に関わる職務の現場です。建設や流通などの現場の問題は、技術的に、また待遇改善などによって解決可能でしょうが、人間をさわる現場が危機にあるとすれば、それは賃金が低いといった問題だけではなく、社会全体が危ないと考えるべきでしょう。