鎌倉幕府の成立

川合康さんの『院政期武士社会と鎌倉幕府』(吉川弘文館)を読みました。元木泰雄さんの『源頼朝』(中公新書)に続けて読んだのは、私にとってタイムリーで、幸運でした。両著相まって、理解と記憶を助けてくれたからです。院政期から中世初期の日本史では、何が関心事であるかがよく分かり、論文名列挙方式の研究史よりも具体的に、動向を把握することができました。

本書は著者2冊目の論文集だそうで、Ⅰ院政期武士社会のネットワーク Ⅱ内乱期の地域社会と武士 Ⅲ鎌倉幕府の成立と武士社会の変容 の3部構成になっています。前著が、鎌倉幕府は治承寿永の内乱の結果として生み出された、固有の歴史的存在であったと説いたことを承けて、ではそのような成立のしかたをした鎌倉幕府が、その後150年にも亘って東国に存続できたのは何故か、という問題を立てた、とまえがきにあります。本書では、1つには中央と地方を結ぶ広域的な人の移動とネットワークを検討して、それが内乱の展開・鎌倉幕府の成立にどう作用したかを追究し、もう1つには、鎌倉幕府が伝統的な武士社会の秩序をどのように変容させていったかを論じています。

人の移動と連繫を検討する論では、この時代に息づく人々の生活が具体的に見え、学部の卒論を書きながら(51年前です!)、もっとこの時代をありありと見せてくれる歴史学が欲しい、と思った願いがいま叶えられつつある、と感じました。頼朝政権がどういう構想の下に構築されて行ったかを論じるところでは、元木さんの著書だけでなく、『曽我物語』や読み本系平家物語などの描く、鎌倉幕府成立とその後の諸事件を思い浮かべながら読んだのです。