武家政治の創始

元木泰雄さんの『源頼朝』(中公新書)を読みました。頼朝伝に関してはずっと、永原慶二氏の岩波新書(1958)を身近かに置いてきたのですが、本書を読み終えて、何だか晴れ晴れと視界が開けたような気がしました。60年以上経った日本史研究の蓄積のせいもありますが、私にとっては、読み本系平家物語のあちこちに、ぷつっ、ぷつっと顔を出す、東国武士や源氏関係の記事の意味が、すべて明らかになったわけではないものの、全体としてつながりを持っていることが感じられるようになったからです。

最近の軍記物語研究は、歴史学に依存しすぎるという懸念をひそかに抱いていたのですが、本書を読みながら、歴史と歴史文学の間、つまり文学側から歴史に近づく際の軸足の置き方について、ヒントが掴めそうな気がしました。これを何とか身についたものにしなくては、と自らに言い聞かせながら読んだのです。

元木さんは『河内源氏』(中公新書 2011)ほか、武士の時代の始まりについて、多くの書物を出していますが、読みやすくて実証性・説得性に富む点が特徴です。本書でも、頼朝の企図した権力の構想がよく分かり、従来の俗説・巷説をひとつずつ外していく過程が爽快です。

吾妻鏡』の記事に脚色が多いことはよく知られていますが、ではそれをどう扱っていけばいいのか、歴史学の側からは、読み本系平家物語の記事をどう読むべきか(延慶本だけ見ていればいいわけではない。少なくとも長門本・延慶本・源平盛衰記は三位一体と見るべきです)など、作業をしながら適切な方法を模索、確認しつつ進むことになるのかな、と思いました。前途遼遠。