マンガで?マンガに?

鈴木啓子さん監修『マンガで楽しむ名作 日本の文学』(ナツメ社 2018)という本が出ました。坪内逍遙から坂口安吾まで45人の近代作家を取り上げ、その作品を選んで要約をマンガと解説で示し、作家図鑑や略年表、文芸思潮相関図などをも収録した、欲張りな本です。

取り上げられた作品は殆どが、男女の問題が絡む作品か、そういう場面で、それは監修者の意図によるもののようです。「読んだらハマる!はじめての日本文学」と題した解説で鈴木さんは、近代の優れた小説は、穴が開いた織物のようなもので、穴を埋めたくなるのがつまり解釈という作業なのだと書いています。

詰め込まれた情報は決して易しくなく、量的にもハンパではありません。ふと、こういう本を造ったのは何のためかな、という疑問が湧きました。マンガで伝える、マンガに翻訳する、それらは同じ作業ではなく、マンガだから分かりやすく、親しみやすいというものでもないでしょう。案外、本書は高度な授業の教材向けかもしれません。

あとがきによれば、鈴木さんは少女マンガを愛読して育ち、その影響力の強さと近代文学との共通性に、学生になってから気づいたそうです。私の育った環境は、漫画に対してまた別の関係を迫ったので、マンガの楽しみと読書から得る苦楽とは、別次元のものと考えてきました。それゆえ、マンガ、とマンガ、とはそれぞれ別個の問題として意識されてしまうのです。漫画という表現手段、伝達媒体に何を託せるのか、それを選択することによって何が変質するのかー吉野源三郎がマンガになる現代、考えてみる値打ちがありそうです。