小学生の時、給食で最大のご馳走は「鯨の竜田揚げ」でした。尤も今と違って、揚げ物はなかなか食卓に上らず、肉は勿論特別のご馳走でしたから、鯨肉が好きだったというわけではなく、臭味を消した竜田揚げなら子供の舌にも美味しかったのです。

我が家は九州出身なので、さらし鯨や松浦漬など鯨の珍味はよく知っていましたが、子供には美味しいものではありませんでした。大人になってからも、それらは地方色豊かな酒肴で、鯨肉は牛や鶏に比べてキッチュな代用品という印象でした。捕鯨が難しくなってからは、渋谷に鯨肉専門店があって、誰かに連れて行かれた時もやはり、こんな高い値段を払って食べる物なのか?という疑問をぬぐえませんでした。

それらは私の偏見かも知れません。しかし日本がこの時期にIWCを脱退する、という報道を知った時、ん?という違和感が走りました。どうしてこんな時期に、何故、鯨?世界で、自己中を国家の政策に掲げる指導者が株価を乱高下させ、難民を死の危険に追いやっているこの時期に、日本中の人が熱望しているわけでもない鯨肉は、国益と引き替えにするほどのものか?しかも、脱退すれば南極での調査捕鯨はできなくなり、近海の限られた漁だけになるのだそうで、そのメリット・デメリットを比較した形跡もない。

ローカルな代議士の横車では?と一瞬ひらめき、いやいやもうそんな時代じゃないだろう、と打ち消したのですが・・・山口県の下関は、かつては捕鯨で栄えた街でした。和歌山(自民党実力者の出身地なのだそう)に反捕鯨団体が押しかけて、嫌がらせをした話も有名です。しかし今、鯨を我慢して食用牛を選ぶことが、祖国の紳士度を賭けるほどのことでしょうか。鯨は養殖できないが、現代は代替の食材がいくらでもある。そこを冷静に判断するのが、政治なのではないですか。