砂丘の辣韮

スーパーの店頭にエシャロットが出ていました。よく洗って髭根を落とし、茎をほどよい長さに切って、嘗め味噌かマヨネーズをつけて囓ると、酒肴になります。マヨネーズに味噌か醤油を混ぜたり、一味や山葵を混ぜたりするとより肴らしくなる。強壮剤の風味なので、焼酎が合うのかも知れませんが、もう私の体力を超えてしまいました。沖縄の島辣韮を素揚げした肴も、美味しかった記憶があります。

日本で売っているエシャロットは、殆どが辣韮だという説があります。鳥取砂丘の名産です。赴任した頃、地元で辣韮のチョコがけを作った(千葉にはピーナッツのチョコがけがある)という話を東京の新聞で読んでいたので、ゼミの学生たちに訊いてみたところ、初耳だ、試食してみよう、ということになり、代表が買ってきました。全員、口に入れてしばし無言―チョコはチョコ、辣韮は辣韮だという結論になりました。

秋には砂丘一面が紫の辣韮の花で覆われる、とも聞いていたので、バスに乗って畑の中を通ってみましたが、ラベンダーや除虫菊のように密植するわけではないので、砂の色の方がよく見えました。離任後、県庁の観光課に勤めた教え子から、東京では生け花に辣韮の花を使うのを見たことがあるか、と電話で訊かれましたが思い当たらず、暫くしてからグラビア雑誌で、大きくざばっと活けたアレンジメントの中に、あの紫の花が混じっているのを見かけました。地元では新しい商機を開発しようとしたらしい。

東京では辣韮は主に、カレーライスの付け合わせというイメージではないでしょうか。口臭を恐れて食べる時を選ぶので、贈答用品にはしにくい。砂丘の農産物で贈答用に向くのは長芋、チューリップ、それにメロンでしょうが、チューリップの球根は富山に負け、メロンは夕張に負けてしまいます。長芋の話はまた後日。