ボンボニエール

親の家を整理したときのことを思い返すと、我が家には蓋物が多かったなあ、という気がします。かつてはジャムも調味料も、必ず商品の容器から自家のうつわものに移して卓上に出されました。蓋物に移されたら、食べてもいいものなのです。主婦のいる家なら、瓶や缶のままの食料品が、食卓に上ることはありませんでした(キッコーマンや味の素の卓上瓶が発売された時は、驚きを以て迎えられたのです)。当時は佃煮も作り置きの総菜も、大小の蓋物に入れて保存したのですが、タッパウェアが出て来てからは、冷蔵庫に入れるにもその方が便利(重ねて入れられる)なので、だんだん蓋物の出番がなくなりました。

我が家は間食の習慣がありませんでしたし、飴玉のようにずっと口の中に入れておくものは、気が散るので、今でも殆ど買いません。しかしちょっと可愛いデザインの蓋物が一つ、卓上に出してあるのは、いかにもアットホ-ムな感じがします。そういう蓋物をボンボニエール(ボンボン入れ)と呼ぶこと、皇室関係の引き出物には定番になっていることを、何かで読みました。

心の余裕のある時は、いくつか残したボンボニエールから一つ選んで、卓上に出します。硝子製には桜桃を、花鳥文の有田焼には金平糖を(角砂糖代わりに紅茶に入れます)、北欧土産の陶器には1口チョコを。ちょっと暖かめの室温が保たれていることと、いつも甘い物が用意されていること、それが母親のいる家の雰囲気なのかもしれません。老年になって、そんな雰囲気の断片が、なつかしく思われます。