英雄叙事詩

福田晃・荻原真子共編『英雄叙事詩アイヌ・日本からユーラシアへ』(三弥井書店)という本が出ました。福田さんのバイタリティには、数々の伝説があります。86歳の今日もこうして、世界的な視野で伝承文芸の集大成に成果を挙げ、多様な人々を結びつけておられることは素晴らしいと思います。

本書は序章に、編者2人による概説「詠うことばの世界―アイヌからユーラシアへ」と「日本の語り物文芸―英雄叙事詩をめぐって」を掲げました。第Ⅱ章では福田さんが我が国の語り物文芸の代表とする「百合若大臣」「甲賀三郎」について述べた後、韓国・中国・テュルクにおける類話が紹介されています。福田さんによれば、この2話はいずれも狩猟民族に伝わり、鷹飼い・馬飼いの文化に支えられてきたもので、日本を稲作文化の面からばかり見る視点の偏りを、指摘しています。

第Ⅲ章には、韓国、中国、モンゴル、チベット、中央ユーラシア、東シベリアなどの各地に伝わる勇者・英雄たちの物語が紹介されています。ユーラシア大陸には、こんなにも英雄叙事詩がいろいろあり、しかも互いに共通する要素が少なからずあるのだという事実に驚かされます。ただ多くの人にとって、頻出する片仮名の名前が、民族名なのか国名なのか(王朝名か、地域名かも)、あるいは言語系のグループ名なのかは、分かりません。巻頭の地図を見ても説明がない。どこかにその説明と、簡単な年代誌(現在の国名、地域名も)を出しておいて欲しかったと思いました。