古今伝受

鶴崎裕雄さんと小高道子さんが編んだ『歌神と古今伝受』(和泉書院)という本が出ました。古今伝授(授ける側からは「伝授」、受ける側からは「伝受」)とは、『古今和歌集』を中心とする歌学上の諸説の一部を秘伝化し、師から弟子へと口伝や切紙、抄物のかたちで相承すること、またその儀式を言います。二条派の歌学の権威を背景に、神道と結びついた宗祇流、天台宗と結びついた堯恵流とがありましたが、前者は近世歌学まで続いていきます。

本書は、京都の旧家の七夕歌会での出会いをきっかけに(さすが京都!)、平成28年12月に開催されたシンポジウム「歌神と古今伝受」をもとに構成されました。歌神を祀る住吉神社玉津島神社の共催で、当日は300人近い参加者があったそうです。

古今伝授のことは、文学史では知っていても、また近年の注釈文芸研究の隆盛から、ある程度の知識はあっても、何か難しそうで敬遠してきましたが、本書の目次から取り付きやすそうな論題を探して読み始め、勉強させて貰いました。

古今伝授や奉納和歌のことだけでなく、和歌の守護神として知られる両社ももともとは海神であり、住吉は航海の神(中世では軍神とも)であって、歌神とされるようになったのは、平安以降というのはやや意外でした。

勅撰集の歌学は王権と関連し、文学だけでない問題へ広がっていくので、古今伝授に関しては多様な分野の交流が有益なようです。