秋田で

中世文学会初日の講演を聴きに、秋田へ行って来ました。宇都宮へ通っていた時には通過列車として眺めていたこまちに乗り、黄金に輝く稲田や綺麗に揃った杉林、清流、小粒の実をたわわにつけた柿の木など、なつかしい日本的風景が見え始めたのはようやく仙台を過ぎてからでした。往復8時間乗って、秋田にいたのは5時間半。

約束していた人と落ち合って、もう一つの目的でもあった打ち合わせを済ませ、講演を聴きました。2本とも資料にはぎっしり細字が詰まっていて、時間内には語りきれませんでした。小峰和明さんの「東アジア文学圏と中世文学」は、いま彼が熱中している、唐・宋・元の説話芸やベトナムの話芸としての説話について、それらが筆記されて伝わり、日本の文学にも影響を与えているのではないかという内容。近く『東アジア文学講座』全4巻(文学通信社)として出版するそうです。野口実さんの「中世前期、出羽に進出した京・鎌倉の武士たち」は、11世紀の奥羽在地勢力と京都権門の利権の関係をふまえ、『吾妻鏡』の記事を検討しながら、もっと出羽国の独自性への注目が必要だと説くもの。ちょうど必要があって、その時期の軍記物語の勉強を始めていたので、研究状況が分かり、有益でした。

いま秋田市では高校野球の選抜戦が始まっているそうで、タクシーの運転手によれば、「金足農業は強いんだが年によってむらがある」とのこと。お土産に食用酸漿をはさんだクッキー、それに比内鶏の駅弁を買いました。このところ、秋田犬が観光の目玉になっているらしく、巨大な張りぼてが出ています。改札口の前では秋田民謡の実演が行われ、吃驚するほど賑やかでした。とつぜんホームの向こうで汽笛が吼え、何だろうと思ったら、今日はSLの運転がある日なのでした。

大曲の駅を出るとき、白金の色をした豪華な花火が揚がりました。偶然、花火大会の日だったのです―何だか元気が出ました。