かつての同僚

30年前の同僚の御子息から葉書が来ました。父君はあの当時、理科教育の教授でした。昨秋から夫婦で介護施設に入り、仲良く暮らしていたが、今年初めにインフルエンザに罹って体力が落ち、春に93歳で亡くなった、科学を学んだ者なので、死後は原子に戻るからと、仏壇も墓も作っていない、という文面です。

私がその職場へ赴任して2年後、教授会で、ある助教授が演説をぶちました。国立大学は教授、助教授、助手などのポストの数が制限されていて、資格は満たしていても教授ポストが空かないと昇任できないのですが、その演説は、このままでは自分は老後の年金額にも響く、という露骨な内容でした。私は顔を上げられませんでした。ちょうど私の前に座っておられた教授が、該当ポストで、定年1年前だったのです。教授は黙って眼を閉じて聞いておられました。まもなく、その教授の退職願が出されました。定年1年前でも、依願退職者には、退職金は満額支給はされません。私は心中深く感嘆しました。自分にはとても真似できない、と思いました。

定年後に移る約束があった職場に頼み込んで、契約を1年早く結んで貰った、とのことでした。その後、私もその近くの大学へ転任したのですが、年賀状だけやりとりするおつきあいでした。毎年、おだやかな、ほほえましい夫妻の短歌が記されていました。

今年は年賀状が来ませんでしたが、去年の賀状を探し出してみると、こんな歌がありました―真夜中に殺人現場へ呼び出され先ず卵食う刑事コロンボ

往時茫茫です・・・合掌。