既視感

鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか―』(2017 講談社現代新書)を読みました。昨年11月に初版が出て、既に19刷、帯によれば15万部突破だそうです。内容は、帰ってきた特攻兵、戦争のリアル、2015年のインタビュー、特攻の実像、の4章から成っており、飛行機に憧れて逓信省の航空機乗員養成所に入り、終戦前年の11月、陸軍最初の特攻隊に選ばれ、度々出撃しながら体当たりでなく、軍が不可能にしていた爆弾投下を2度果たし、終戦でフィリピンから生還した佐々木友次という人物を軸に、特攻作戦とは何だったか、を問うています。

特攻作戦がいかに非人間的で、しかも無益、無責任な作戦であったか、にも拘わらず世上には美化されて伝わってきたことはよく知られていると思います。本書の冒頭に出てくる振武寮(生還した特攻兵を監禁、再訓練した軍の施設)を取り上げたNHKのドキュメンタリー番組は、偶然私も視ました。驚きで声も出なかったくらいでした。しかし、このように信念と自らの飛行技術を以て生還した人物がいたことは、知りませんでした。本人の心の勁さ、腕、運―そして周囲にも、無茶な命令にそっと背いて、できる限りのことをやった人たち(上官の岩本大尉や、直掩機や無名の整備兵たち)がいた。今になってみれば、それらの人たちの存在が、むしろ日本の誇りではないでしょうか。

本書は終章の20頁ほどが必読です。現代の防衛庁始め行政や政治家の言動が、まるであの頃をそっくりなぞっているかのようだからです。否、政界だけではありません。組織の中にいて、弾き出されず、しかし危ないこと・やってはならないことを避けていこうとすると、ここに書かれた大日本帝国の組織そっくりのあれこれにぶつかったことを思い出します。気がつかないだけで、誰しも同様の経験があるのではないでしょうか。