青春文学

高山実佐・東直子・千葉聡編『心に風が吹いてくる 青春文学アンソロジー』(三省堂   ¥1900+税)を読みました。表紙の絵がすてきです。

本書は小説20篇の抜粋と詩・短歌・俳句を、1友情を胸に、2恋のかたち、3私って何だろう、4家族がいるから、5さまざまな状況を生きる、6未来に向けて、の各章に配し、東さんのエッセイ4篇も入れて編まれています。各章の最後に抜粋された小説のあらすじと解説、そして千葉さんの推薦する本3冊のブックガイドが付されています。

青春文学と呼べるものが今はこんなに数多く、バラエティに富んでいることに、まず驚きました。私たちの世代で青春文学といえば、「オリンポスの果実」が有名で、あれは確かに健康的だが退屈、童話を卒業して後は、親の本棚から手当たり次第に抜き出して読んでいました。本書には朝井リョウ、宮下奈都、山田詠美古井由吉綿矢りさ穂村弘江國香織三浦しをん・・・流行作家を始め力量のある作者たちが、目白押しです。私が初めて見る名前も多く、今度本屋へ行く時は、本書を携行して文庫本の棚を物色しようと考えています。

作品選定は勿論、恐らく抜粋のしかたも抜群なのでしょう。現代の若者たちを取り囲んでいる世界を、内側から見るとこうなのか、と思いました。決して説教臭くなく、また大人の憧れる青春幻想でもなく、例えばイリーナ・コルシュノフやジョン・グリーンの作品には、いま世界で最も尖った問題が、若い世代の視点から捉えられています。

一つ、えっ!と思ったこと―現役高校教諭の千葉聡さんの「ジョー、ジュディ、アンの友達」は、少女小説とのみ見られている作品も、読み込めば人生の大事な問題を抱えているのだ、というメッセージなのでしょう(全編を読んでみないと判りません)が、『山月記』を、教室で自虐ネタと共に教えられる度胸には仰天。あの作品は初めて読んだ時怖くて、教師として扱う際も深掘りできませんでした。何故なら私もあの頃、創作者になりたいとの心底の秘め事があって、李徵の運命が他人事ではなかったからです。