教師たち・その2

中学・高校時代の教師には、リアルな戦争体験者が何人もいました(当時はオジサンのように思っていましたが、未だ30代から40代前半だったのです)。中学の職業家庭の教師は他のクラスでは英語も教えていました。フィリピンで従軍したから英語は喋れる、ということでしたが、生粋の東京育ちなので、「hi」の発音が「し」になる。英語を教わるクラスに同情しました。

高校の古文の教師からは、初年兵で馬の世話をしていた話を聞かされました。ある時、乗ってみろ、とけしかけられ、乗ってみたら馬が突然走り出したそうです。馬は不慣れな人間をよく見抜いていて、手綱を引いても小馬鹿にして言うことを聞かない。大変だと、上等兵が別の馬で追いかけたら、もともと競走馬だったので、興奮してますます走る。馬上にしがみつきながら思いついて、馬の首を両腕で絞めたらやっと止まり、それ以来、馬の首を絞めた初年兵として有名になった、という話でした。

数学のT先生は、問題の解き方も教え方もスマートで、おかげで私は数学が好きになりました。片足をすこし引きずるようにして歩く人でしたが、修学旅行で京都へ行った時、宿に着いたら靴下を脱ぎ、自分で踵を消毒し始めました。思わず目を背けるほどの傷口がざっくりと開き、膿んでいて、これで終日歩いたのか、と吃驚しました。長崎の造船所へ学徒動員され、被爆した時の傷だ、と言われました。言葉も出ませんでした。

その後40年以上経って、クラス会でお目にかかりました。眼光鋭く、かっこよかった数学教師は、ふつうの老人になっていました。ちょっと落胆もありましたが、ともかく古稀を越えられたことを、心の中でお祝いしました。数年前に、鬼籍に入られました。