役者の老後

学部入学後、演劇部に入りました。劇団「雲」が旗揚げした頃です。サルトルの「汚れた手」の公演準備が始まっていました。部長は東大留年6年目というむさい人で、新入生歓迎コンパのために上着を質入れしてきたんだよ、と上級生から教えられ、恩着せがましいなあと、その上級生をうとましく思いました。部長から、好きな役者は誰かと訊かれたので、長門裕之加藤剛、と答えたら、おっ、いい勘してる、と背中を痛いほど叩かれました(報道によれば、その部長は今、Gパンで演じるシェイクスピア劇の演出家として有名です)。

いい勘だったのかどうか―どちらもちょっと線が弱い青年俳優でした。長門裕之は、「豚と軍艦」という映画が印象に残っています(今となっては、長生きした津川雅彦の方が名優になりました)。加藤剛はほほえみがすてきだったのですが、ブレイクしていた頃は私がTVのない生活をしていたので、映画「砂の器」と「舟を編む」くらいしか記憶に残っていません。後者は出演場面は短いが、年齢相応のいい演技だと思いました。

役者や歌手の老後を観るのが、この頃の楽しみになりました、ちょっと意地の悪い目で。若い頃の持ち歌を歌うのが無残に見える人、その時々に年齢相応のいい仕事をしてきた人、老後にいい演技ができるようになった人・・・自分の参考にはなりませんが。

演劇部は公演間近かになると構内泊まり込みになるので、21:00門限の家庭に育った私は、半年も続けられませんでした。正門が閉まった後、門衛が塀の穴から出るよう教えてくれたことを思い出し、探してみるのですが、もう穴はありません。