古代史料

『古代史料を読む 平安王朝篇下』(同成社)を頂いたので、陸奥話記(佐倉由泰)、後三年記(野中哲照)、御堂関白記(近藤好和)、年中行事絵(遠藤珠紀)の項を読んでみました。本書は一〇世紀以降の諸史料の読解法を容易に身につけることができるよう編まれたもの(小口雅史・佐藤信編)で、典籍と文学、古文書、法制史料、絵巻物、古代史料の周辺、の6章立てになっています。日本史を学ぶ学生への入門書として企画されたものでしょうが、簡明に史料の特色が説明されているので、一般の読者にも面白く読めるでしょう。

陸奥話記・後三年記は、最近になって大きく評価が変わったものなので、事典類や旧来の文学史に頼ることは危険です。ここに述べられている最新の学説も、まさに今、検証の対象にすべきものでしょう。後三年記の項はすっきりとまとまっていて、読みやすい。筆者本人の著書では分かりにくく輻輳していたのに、こんな風に整理しようと思えばできるんだ、というのが率直な感想でした。陸奥話記の項は逆に、この紙数で書く内容ではないのでは、と思いました。細かな実証は別の場で試み、結果を分かりやすく示すべきです。

野中さんは自著『後三年記の成立』『後三年記詳注』(いずれも汲古書院)で本文批判と校訂本文作成を済ませた上で結論を提示し、佐倉さんは大著『軍記物語の機構』(汲古書院)ですぐれた作品論を展開した後に本書に執筆しているという、各々の事情は解りますが、本書の読者には不親切です。佐倉さんには、別の場でじっくりと本文批判を展開して欲しい。御堂関白記の項では、紙数が足りなかったのかも知れませんが、文末を(体言止めでなく)きちんと結んだ方が、読者は安心して読めます。