入梅前

屋内では雨が降り出してもなかなか分かりません。以前のように、路面が濡れると車のタイヤ音が変わることも少なくなりました。「お天気体感中継」なんて番組があるのもそのせいでしょう。数日前からムスカリの球根を掘り上げて干しているので、絶えず窓外を気にしながら仕事をしています。

いつの年か、乾ききっていない球根をしまい込んだら腐ってしまいました。納戸を開ける度に、障子を貼る時のふのりのような臭いがしたのですが、まさか球根の腐敗していく臭いだとは思わなかったのです。可哀想なことをしました。

春以来ずっと苦心した仕事の山が見えてきたので、梅を漬けたい、せめて小梅でも、と思ってスーパーへ出かけるのですが、そういう日に限って売り切れ。杖を突くようになってからは、買い物の重さを考え、雨傘の要らない日に買って来なければなりません。入梅前の焦りです。

湿った空気に混じって青葉のいい匂いがします。杏の実が落ち始め、木下闇という語が相応しくなり、季節は足早に進んで行きます。