わかりやすさ

一世を風靡した「ヤングマン」は、つまらない歌だと思っていました。わかりやす過ぎるからです。歌手もそれほど巧くない。むしろTVドラマ「寺内貫太郎一家」の中で、「雨の日は煙草が美味しいのよ」と呟く年増の出戻り女性(演じたのはたしか太地喜和子だった)にほのかに憧れて、未成年なのに煙草を山ほど買い込んでくる場面が印象に残っています。

しかし青山斎場を出て行く霊柩車に向かって、号泣しながら手文字を作り、YMCAの大合唱が起こった時、いい歌だな、と思ってしまいました(TVニュースで視たのですが)。人を感動させ、記憶に残る力とは何だろうか、と考えさせられました。あの場合はファンたちの青春の思い出が重なり、聞くだけでなく身体を動かし、自分たちも大声で歌った体験が決め手だったのでしょう。未だ鎮魂とはいえず、別れや見送りの感情が最高潮になった場面でした。

語り物の場合はどうだろうかーつい、そこに考えが戻っていきました。音楽はたしかに人を救う力がある、それは現実を抽象化できるからだ、と書いたゲラを見たばかりだったので。大勢で一所に、同じ感情を共有することは、言葉で伝えられた内容以上の何かをもたらす、ならばそれが、平家物語の何を変えたのか、変えなかったのか。