もぐら叩き

四十数年前に勤めていた定時制高校の教頭は、旧帝大農学部出で、思想的にはかなり紳士でしたが、すれ違いざま女性事務職員のお尻をひょいと撫でたりしました(挨拶代わりの所存らしい)。さらに20年くらい前は、若い医師が看護婦に同じ「挨拶」をするのも目撃しました。日本はそういう国だったのです。

ある年、教頭が校長昇格試験に落ち、私に一晩つきあってくれと言いました。当時教務主任だった(定時制は校長が常駐しないので、実質的に教頭がNO1、教務主任がその次、という役回りなのです)ので、やむを得ず、いいですよ、と言いました。新宿のバーに入り、いやにテーブルが低いなあ、と思っていたら、ウィスキーを運んできた女性が、跪いてお給仕をするのです。居心地がわるいので、8時に電話を貰う約束があるから、と早々に辞去しました(ケータイの無い時代でたすかりました)。

同じ頃、他校の教員も一緒の忘年会があり、膳を離れた隙に、教頭が私の様子を窺いながら盃を取り替えました。ここで騒いではならないと思って席に戻り、彼に見えるように盃を180度回してから呑みました(今なら大声で杯洗を貰います)。後日、我が家で家族が箸を取り違えた時、私はバクハツしてしまいました。気持ち悪いよ!と。

彼が私に気があった、とは考えていません。オトコ(の一部)は、自信を喪いかけた時、目下の女性を支配できるかどうかを試す習癖があるようです。対策は、その時その場で、私はそういう対象ではないよ、というサインを出すこと。もぐら叩きのように。

それぞれの業界で闘い抜いてきた女性たちには、それなりのノウハウがあるのではないでしょうか。その伝承をマニュアル化しては如何でしょう。人によって有効な方法が違うかもしれないので、多様な事例を(好色人種たちの興味をそそらない工夫をした上で)公開するのはどうですか。女性たちが自らその場でハラスメントをはね返さなければ、もぐら叩きは永遠にやめられません。