戦国武将と能楽

原田香織さんの『戦国武将と能楽』(新典社新書)という本が出ました。活字が大きく、読みやすい。家康を中心とした戦国武将と能楽にまつわる逸話が、次々に出てくるので、読者は多いと思います。

私はちょうど芸能史の勉強をしているところで、『新猿楽記』の「蝦漉舎人の足仕ひ」などの滑稽劇の記録に関心があり、天正3年(1575)の長篠合戦前夜、酒井忠次が「えびすくひの狂言」を命ぜられて陣中の緊張をほぐした、という逸話に目が留まりました。出雲の泥鰌掬いのような、滑稽な踊りだったのでしょうか。550年もの間、同じ芸能が伝わっていたとは考えにくいようですが、シンプルな仕草で誰にも分かる場面を演じる滑稽踊りは、案外永く伝承されてきたのかもしれません。

ときどき分かりにくい文章に遭遇する(コンパクトに書くために、主語などをはしょる必要があったのでしょうか)のが残念ですが、楽しみながら速読できる本です。巻末に「能楽史関係略年譜」がついています。