新入社員だった頃・アジア勉学篇

TV局に入社後、国文科卒業は売りにならない、何かジャーナリスティックな専門を持たなければ、と悟りました。

学生時代に東南アジアを訪問したことがあり、4年次にマラヤ年代記や東南アジア史の講義を受けたりもしていたので、東南アジア問題に詳しくなろうと決めました。まずマラヤ語の辞書を買って基本単語帳を作り、朝の通勤電車内で覚えることにしました。マラヤ語は文法的にも易しい言語だと聞いていたからです。

会社が終わって走っていくと、日比谷図書館の閉館15分前に入ることができ、す早く棚を見渡して本を借りました。この会社では採用内定から入社までの間に、必読書の一覧表が渡され、その殆どはコミュニケーション論でした(時枝誠記の『日本文法 口語篇』などもありました。未だ民間放送が始まってから時日が経っていなかったので、映像論やマスコミ論などはなかったのです)。夏頃にマクルーハンが流行し始め、話題にはなっているが誰も本気で読んでいないようなので読んでみたら、「ホット」と「クール」の概念を従来とは逆に規定しているところに新味があるらしい。そう言ってみましたが、全く相手にされませんでした。

帰りの電車では立ったまま本を読みました。ある日、痴漢に遭いました(未だ20代だったので)。身体の向きを換えて逃れようとしましたが、しつこい。読んでいた本で頭を叩きました。山川出版から出た『インド史』だったので、軽いが厚みがあり、ぱかん!と大きな音がして、車内の注目が集まりました。犯人はこそこそ逃げ、私はそのまま本を読み続けたため、好奇の目・・・一部始終を見ていた人がいて、痴漢を殴ったのよ、と説明していました。