薺(なずな)

薺(なずな)の白い花が路傍に咲いています。『明恵上人伝記』の中にこんな話がありました―ある時、庭の薺を摘んで味噌味の雑炊に入れて食事に出したところ、上人は1口食べて周囲を見回し、引き戸の桟に積もった埃を指で掬って雑炊に混ぜた。わけを訊くと、あまりに美味しいので今後執着心が起こってはいけないから、と答えた、というのです。

薺は正月の七草にも入っており、粥などに混ぜてよく食用にしたらしく、そんなに美味しいのだろうか、と実験してみたことがありましたが、煩悩人の私にはさほどに感じられませんでした。尤ももう伸びてしまった葉や茎ではなく、早春の芽生えたばかりの香りを楽しむのかも知れません。以前、長野の友人から郷里のお土産に頂いたのは、未だ紫がかった小さなロゼット状のもので、雪解け直後に、ナイフで地面をこそげるようにして採集するのだとのことでした。

タネツケバナも同じ仲間です。茎と葉を油炒めにしたら美味しいかも、と思いながら、とてもそれだけの量は集められないので通り過ぎているのですが。園芸植物のアリッサムも同じ仲間らしい。油断するとすぐ、小さな青虫に丸坊主にされます。