飛蝗の現場

前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書 2017)を読みました。表紙にぶきみな飛蝗コスプレが描かれている本です。売れているらしい。

昆虫好きが高じて飛蝗研究者になり、ポスドクの生活不安を抱えつつ、学振の海外特別研究員に応募して、モーリタニア国立砂漠トビバッタ研究所でフィールド調査を行った3年間をドキュメント風に書き綴った本ですが、本人の行動も本書の文体も、まるでお笑い芸人のノリ。気軽に読めるには違いないが、例えば緑のタイツで飛蝗の大群に見得を切る、なんて「実験」は理解しがたい(この衣装も科研費から支出したのか?)。どうやら自虐的かつ自信過剰なのが愛嬌になる、と考えているらしいのです。

しかし、世界の飢饉はオレしか救えない、といった誇張表現は鼻につきますが、現代の若手研究者にとって、己れの道を切り開いていく著者のしたたかさと運の強さには学ぶべきものがあり、共感も覚えるのではないでしょうか。研究対象に遭遇した時、難局を切り抜けた時の著者のわくわく感は、分野を超えて貴重なものです。笑いを取ろうとする姿勢も、プレゼン能力の一つと見るべきかも知れません。なお、私が本書中で最も印象づけられたのは、京都大学の次世代研究者育成事業「白眉プロジェクト」のことで、さすが京大の伝統、と思いました。

それにしてもこの文章の軽薄さは、何とかならなかったのか。もっと抑えて書いても十分(あるいは、より)面白可笑しい内容で、そもそも無手勝流で未知の世界へ飛び込んでいく若者の周囲には、自然と笑いがあふれているものです。それに、国際的にも大問題である飛蝗の生態研究の成果と見通しをもう少し多く、一般人にも分かるように盛り込んでおいて欲しい。(私が読むことは殆ど無いと思いますが)次作に期待したいと思います。