猫水仙

近所の家の塀際に、猫水仙や貝母が咲き出したのを見つけました。「猫水仙」という名前のいわれは分かりませんが、純白で房咲き、ブライダルブーケにぴったりな感じの水仙の一種です。葉はつけずに花だけ束にして、売るようです。

名古屋で住んでいた小さなマンションの南側は、急な斜面になっていて、我が家のベランダの真前に1本の黄味ソヨゴの木があり、小鳥たちが賑やかにやって来ました。布団を干しておくと鳥の落とし物で汚れるので、ブルーシートを被せなければなりませんでしたが。夏の夜にはちょっと離れた池の方から、水鶏の声のほか、不気味な鳴き声も聞こえ、牛蛙だろうとのことでした。但しあの池は、名古屋大学の化学部が捨てる薬液が流れ込んで、生物が変異を起こし、怪しい物もいるかもしれない、との噂を聞かされました(物理学の助手の話です)。

崖には一面に水仙が植えられていました。特に世話する風もなく葉が茂っていて、野生も同然に見えました。名古屋では切り花は贅沢品なのだ、と思うほど、当時は花屋の花が高価だったので、路傍の摘み草を家に飾ろうと思いましたが、自動車王国の名古屋のこと、道路はすべて舗装されていて、雑草も殆どありません。ある日、いつもと違う道を通って、崖の下を通りかかると、手の届く所に水仙が咲いている。1本失敬しようかと、暫く佇んで眺めましたが、やっと思い留まりました。

翌日、坂下の花屋のショーウィンドウに、あの水仙の花束が出ていました。「猫水仙」という名札がついて。あやうく窃盗犯になるところでした。