面接試験

女子短大に勤めていた頃、高齢の男性教員とペアで面接試験をしたことがありました。受験者の中に、パンタロンスーツを着てきた一浪生がいました。口頭試問は難なく終えたのですが、判定の際に相方が、面接にズボンを穿いてくるなんて非常識、と言い張って聞きません。仕立て下ろしだということは一目見て分かる服装だったので、私はかなり反論したのですが、女の正装はスカートだ、と頑強に主張されました。数年経って、パンタロンスーツはイギリス宮廷の正装でも通用、という新聞記事が出ました。

紙の試験だけでは不公平だから面接導入を、という意見は的外れだと思っています。面接はされる方だけでなく、する方の器量を露呈します。今は、入試の面接で訊いてもいい項目が非常に限定され(出自や家族、信条に関わる質問はNG)、却って面接官の直感(好悪)に左右されがちです。面接の専門家がやるならともかく、またどういう基準で可不可を決めるかがあらかじめ明確にされていない限り、入試の手段としては使うべきではないと考えます。

しかし、医学生進振り(進路決定)に当たっては、各人がほんとうに医師として向いているのかどうか、コミュニケーション能力と対人意識を中心に面接して貰いたい気がします。少なくとも医学部のカリキュラムに、そういう科目を組み入れて欲しい。外科医には手先の器用さも必要かも知れませんが、医師一般にとって、患者を人間らしく扱う姿勢と、説明能力(病状、予測、治療の選択肢に関する)とは不可欠でしょう。殊に余命をある程度選べるようになった今日、どこまで何が分かっているか、どれだけが本人の選択範囲か、きちんと説明して欲しい。

保険医療費を下げるために老年治療を制限する理屈をあれこれつける前に、まずは医療関係者の意識とコミケ養成のシステムを見直すべきです。しかも早急に。