羊羹

芥川龍之介の書簡集に「羊羹をありがとう(こう書くと、羊羹に毛が生えているような気がしてならぬ)。」という礼状があります。芥川も漱石も、胃酸過多で悩んでいたのに、なぜか甘い物を貰って書いた礼状が多い。周囲も気が利かないなあ、と以前は思っていたのですが、自分が胃腸を悪くしてみて納得がいきました。運動不足(座ってやる仕事が多い)で、ストレスが多くて、酒を呑まない、となると甘い物くらいしか楽しみがなくなるのです。

朝は家事から仕事へ移るときに珈琲を、夜はその日の分の仕事が終わったときに酒に合う手料理を、というのが永い習慣だったのに、刺激物をやめたので一日のメリハリがなくなった、とかかりつけの医者にこぼしたら、我慢しなさい、と叱られました。我慢していたら治りますか、と訊いたら、症状がよくならなければ再検査、との返事。つまりはあれこれ試してみている段階が未だ続いているんだ、と分かり、落胆。せめて、文豪たちと同じ生活になったのだと思うことにしました。

医者からは水分をこまめに摂るよう言われたのですが、仕事の邪魔にならないように補給するのが案外むつかしい。食事に合う、刺激物でない飲み物を探すのに試行錯誤しています。日本茶だけではつまらないし、市販の飲料は甘すぎるし、味噌汁やスープでは塩分が多くなるし。それに酒でない飲み物に合わせた季節料理というものがなかなか思い浮かばず、買い物に行ってもうろうろするばかり。40年来の生活を変えるのは、簡単ではないようです。

羊羹という文字には毛が生えている、という芥川の想像には同感です。なぜかと言われると説明に困りますが・・・