古活字版悉皆調査目録

高木浩明さんの「古活字版悉皆調査目録稿(9)」(「書籍文化史」19)を見ました。今回は静嘉堂文庫の調査が中心です。

静嘉堂には院生時代、『国書総目録』制作のアルバイトで通いました。編集部の質問カードに、実際の古典籍を調べて回答を書き込むアルバイトです。カード1枚¥50でした。静嘉堂は、当時は交通不便で、山の上にあり、冬はしんしんと寒く、夏は藪蚊に刺されまくる所でしたので、行った日にはたくさんのカードをこなそうとがんばりました。書庫の出し入れもたいへんだったようで、司書の丸山さん(書誌学で有名な方です)から、「あんたが門を入ってくるのを見るとぞっとする」と言われたりしました。

高木さんのお手紙には、すでに1080点の古活字版調査データが揃ったこと、川瀬一馬氏の大著『古活字版之研究』の補訂を幾つか果たしたこと国文学研究資料館との共同研究を進めていること、新典社から単著『近世初期出版と学問の世界』をまもなく出す予定であること、今後は書誌解題をつけた古活字版目録を作成したいこと等が綴られていました。

雑誌「書籍文化史」を主宰してきた鈴木俊幸さんの後記によれば、科研費申請に短期的成果を求める制約がより厳しくなってきて、本誌の発行経費を計上することが難しくなり、今号を以て休刊するとのことです。さびしい話です。

静嘉堂は、春先には門前の枝垂桜に鳥たちが戯れ、極楽の風景のようです。夏には藪の中に大輪の山百合が顔を覗かせます。文庫は一般公開されていませんが、美術館の方は公開されており、収蔵品の展示や庭園観賞が楽しめます。