積もる雪

東京は予報より早く雪になりました。細かくてせっせと降り続ける、積もる雪です。

鳥取に赴任して初めて雪が降り出した午後、いつものように研究室で仕事を片付けていたら、向かいの部屋の助教授(菅原稔さんです)が扉を叩き、この雪は積もる雪だから早く帰った方がいい、と忠告してくれました。何気なく降り続けて積もる雪と、見かけは華やかだが積もらない雪とがあるのだそうで、言われるままバスに乗って帰宅する途中、中古車販売場に並んだ車のワイパーが全部立ててあって、まるで昆虫の触角の林のような、不思議な光景を見ました。積雪の重みでワイパーが折れるのを防ぐためらしい。

歌舞伎の効果音で雪を表現する太鼓は、誰がどういう工夫で見つけたのでしょうか。虚構なのに実感があります。雪の積もる日は街の音が吸われて消え、しかし霏々と、またはしんしんと、降る雪には音のない音があるからです。

北越雪譜』の冒頭は有名ですが、嬉しそうに街を歩く毛皮フードの女の子をTV画面で見ながら、若いんだなあ、と嘆息しました。40代だから鳥取で勤められたけれど、もう雪国で働く自信はありません。そういえば、昨日、美容院の帰りに、老木の白梅に数輪の花が咲き始めたのを見たけど、どうなるかしら。