海を渡った日本絵巻

辻英子さんの『海を渡った日本絵巻の至宝』影印編・研究編(笠間書院)という本が出ました。辻さんの精力的なお仕事ぶりには頭が下がります。本書にはロシア、イギリス、アメリカ及び日本の貴重な絵巻と筆跡資料に関する研究と影印が載せられています。中でも圧巻は、「浅井了意筆『長恨歌』断簡の出現」と題する石川透さんの論文でしょう。予想が的中した石川さんの喜びは、さぞやと思われます。それにしても断簡紙背の落書きの朱が恨めしい。

影印・口絵では久しぶりに、おっとりした初期の奈良絵本や、近世初期の流麗な和歌懐紙で目の保養をしました。ロシア科学アカデミー所蔵絵画資料の調査・報告は今までなかったのではないでしょうか。ピョ-トル大帝記念人類学民族学博物館蔵のNO312-58・2-1本は、例えば「◯◯茶会記」のような仮題をつけておいた方が、今後の研究には便利だったのではないかと思いました。