絵画の回廊

出口久徳編『絵画・イメージの回廊』(笠間書院)を読んでいます。このシリーズは、小峰和明さんの古稀記念のため大勢の人に少しずつ書いて貰うという方針らしく、本書も国内外22人の執筆者が顔を揃えています。それゆえ、いささか食い足りない感もありますが、これから発展する分野だということでしょう。

最も面白かったのは楊暁捷さんの「デジタル絵解きを探る」。楊さんは、かつては源平盛衰記と中国古典の関係についてのいい論文を書いていたのを記憶していますが、最近は国際的にも共通言語となる絵画資料の応用を自在な発想で追求していて、活力に満ちた文章でした。西山美香さんの「挿絵から捉える『徒然草』」や、川鶴進一さんのコラム「『北野天神縁起』の教科書単元教材化について」などにも可能性を感じました。尤も後者は、どの学校現場にも通用するわけではないでしょうが。

根津美術館所蔵の「平家物語画帖」は、そのデザイン性を追究してみたい作品です。扇面という限られた空間に、どのように物語性を活かしたかー画工の意気を汲み取って論じたいとかねてから考えていました。なお191頁掲出の慶長古活字版本文の注記は、「勉誠出版」とあるべき。

出口久徳さんの「絵入り写本から屏風絵へ」が取り上げた貼り交ぜ屏風は新資料ですが、なぜ屏風に仕立てたのか、傷んだ絵本の再利用だったかもしれず、意図を深読みしない用心も必要では。なお「鷺(延喜聖代)」は、八坂系など平家物語諸本での扱いはいろいろあり、必ずしも平曲の小秘事に直結するとは限りません。むしろ能の題材としてよく知られていたことが大きいのではないでしょうか。