軍記・語り物研究会415例会

軍記・語り物研究会の例会に出ました。発表は、井上翠「『源平盛衰記』の巴の物語」と粂汐里「絵画化された説経・古浄瑠璃作品について」の2本です。

井上さんの発表は源平盛衰記を作品として読もうという試みの一環で、丁寧に盛衰記の本文を辿っていきました。近年のこの会の傾向でもありますが、先行研究のあれこれを満遍なく拾うけれども、それらはみな目的の異なる論考であり、まずは自分の立ち位置を明確にしておかないと、聞く方は勿論、発表者本人も道筋を見失ってしまう可能性があります。そして、じつは平家物語の諸本論は、ここ数年のうちに根底から大きく変化しつつあり、何が変わりつつあるかを感じずに作業をすると、のちのち方向を誤ってしまうことになりかねません。その旨、率直に発言しておきました。

粂さんは精力の必要な分野をがんばって勉強していて、今後が楽しみだなと思いました。古浄瑠璃説経節・幸若・御伽草子、そして軍記物語の関係と分別は、なかなか一筋縄ではいきません。ましてその絵画資料となると、関連資料の探し方、捌き方も手探りの部分が多いと思います。中世と近世に跨がり、歴史・芸能・文学・美術史に跨がる、まさに精力と根気の要る作業の連続でしょうが、それだけに宝の山でもあります。

帰りにアメリカから源平盛衰記の研究のため来日しているV・セリンジャーさんから、ベンチで(この頃は喫茶店でお喋りをすると、うるさがられたりするので)、今後の研究計画を聞きました。平家物語の血の記述に関する論文を書き終わって、今度は苦痛や死の恐怖の記述について考えたいそうです。もう一つ、ラーマーヤナに見える貞女説話の日本での変容についても、構想があるとのことでした。

自分のやりたいことを、言葉を探しながら組み立てていく現場に立ち会うのは、楽しいものです。街にはもう、クリスマス・イルミネーションが燦めいていました。