文法の授業

古典文法の授業に苦労している先生方は多いと思います。大学の教養科目や文学部の初期科目の場合、私は(よい教師だったかどうか分かりませんが)、こんな風にしていました。

まず、古典語と現代語の間には1000年近い時間があり、同じ日本語だからそのまま読めると思ってはいけない、英語は外国語だから辞書を引くのが当然だが、日本語でも1000年前の言葉は外国語も同然なのだ、と言います。次に、日本語の微妙なニュアンスは、語尾の小さな部品、つまり助動詞や終助詞に籠もっていることが多い、しかも古典語には現代語にないニュアンスを表す語があって、それが分かると古文が面白くなる、という話をします。時間があれば実例を挙げます。教材の中に適切な例があればいちばんいいのですが、例えば山口明穂さんの『日本語を考える』(東大出版会)なども使わせて貰いました。そして、大学へ来たら、受験用ではないのだから、分からない語は辞書を引けばいい、但し英語で言えばbe動詞を一々辞書を引くわけにはいかないように、助動詞や助詞は覚えてしまわないと厭になるよ、と言っておきます。さらに、高校時代の文法は大変だったけど、大学では助動詞と終助詞だけ暗記して、敬語の3種類が見分けられれば古文は読める、と話します。そこで、25歳までが記憶力の上り坂だから、未だ暗記できる、と暗示を掛けるのです。

授業が進んだら、動詞の活用の種類をおさらいし、助動詞一覧表をちょくちょく参照しながら、接続・意味・活用の3要素をセットで暗記する必要があること、品詞分解は語尾から解いていく方が解きやすいことなどのコツを教えていきます。その次に、形容詞は雰囲気を表す語なので、早とちりせずまめに辞書を参照すること、一語だけで訳さず文脈をよく考えることを注意します。謙譲語は現代語の表現では少なくなってしまったので直訳せず、人物の関係をよく考えて現代語に置き換えることを言い添えます。

これでもう辞書さえあれば何でも読める、と断言します。最後に、基本的に高校の授業で習った以上の文法知識は専門課程でも習わない、ただたくさん読むと勘ができるだけだ、と安心(?)させるのです。高校の文法の教科書は、ずっと役に立つすぐれものだから捨てないように、と最初に言って置くこともあります。

つまり、動機付け(なぜ文法を学ばなければならないのか)をし、要点を切り詰め、厖大な暗記はもう必要ないと言って誘導していくやり方です。講読教材のそこここで、動機付けを確認しながら行ければ理想的でしょう。