谷崎源氏の改訂過程

大津直子さんを中心に行われている、新訳谷崎源氏の草稿をテクストデータ化する共同研究の報告を読みました(「國學院大學紀要」55)。科研費若手研究B「『旧訳』を中心とした谷崎源氏テクストに関する基礎的研究―翻訳文学としての再検討―」(課題番号26770087)の成果だそうです。

戦後1951年から刊行が始まった谷崎源氏の新訳草稿は、山田孝雄・玉上琢弥、さらに中央公論社の編集者の書き入れと共に、谷崎潤一郎自身が積極的に書き込みをしており、官憲の制約によって歪められたとされる戦前の旧訳に比して、それ以外の理由でも改訳されていることが明らかになってきました。この報告では、蛍巻の一部について、旧訳及び2度に亘って書き込まれている山田・玉上・谷崎の書き込みと新訳とを対照して掲げています。厖大な労力と根気、それに源氏物語本文や谷崎潤一郎の思想によく通じた判断を要する作業ですが、全巻の校本を作成する予定らしい。結果は出版よりもウェブ公開の方が現実的だと思います。若手研究者たちの熱意とチームワークに期待したいものです。共同作業の過程から、必ずや各人の研究に資する副産物が生まれることと思います。

私自身は中学時代に与謝野源氏を通読しました。学部2年の時、「源氏物語を通読した人は?」と主任教授から訊かれて挙手した人が1人しかおらず、叱られたので、一念発起して古典大系(山岸徳平校注)で通読しましたが、傍注がうるさくてなかなかはかどらなかったことを憶えています。