変わりゆく田園風景

学生時代の旅行はたいてい夏休みでしたから、一面の青田風景でした。未だ大半の道路は舗装されておらず、青田の中に一筋白い土埃が走るのを目印に、バス通りを見つけました。あちこちで青田と農家の合間に咲く濃い黄色の花むらが印象的だったので、尋ねると、菊芋という植物だと分かりました。帰宅後その話をしたら、何故か親の顔がふと曇りました。後年、再びその話が出た時になって、「あれは、戦争中、根を食料にするため強制的に植えさせられたのだ」と言うのです。そういえば幼年時代を過ごした茅ヶ崎の砂地でも、道の脇にひょろひょろ咲いていたのでしたが、20年以上経ってなお、戦争の遺物が日本の田園を彩っていたとは驚きでした。その後、観賞用に品種改良された八重咲きやオレンジ色のものが庭に植えられているのも見かけましたが、さすがに平成に入ると、食用の菊芋を見かけることは少なくなりました。

かつて田圃の一角には一握りの草花が植えてあって、夏の風景に鮮やかな色を添えていました。仏壇に上げる花だったのでしょうが、車窓からそれらを見るのは、出張や調査旅行のひとときの楽しみでした。高度成長の後、列島改造が叫ばれる頃から田圃の花も見かけなくなりました。機械で稲作をするようになったからでしょうか。

改めて菊芋をネットで調べてみて、近年は糖尿病患者のための甘味料として栽培され、特産地を目指している地域もあることを知りました。除虫菊や煙草が、ある地域にとって思い出の風景に欠かせない要素であったように、時代につれて心の田園風景も変わってゆくことになるのでしょう。