『常識を疑う』

藤巻和宏さんの「中世が無常の時代というのは本当か」(『古典文学の常識を疑う』勉誠出版)を読みました。藤巻さんは『ともに読む古典』(笠間書院)でも、中世が宗教の時代と言われるのは、現代人に都合のよいレッテル貼りに過ぎない、と論じています。たしかに、忙しい私たちはキャッチコピー的な割り切り方で、本来多面的であるはずの人間文化を角切りにして、ある一面だけで理解した心算になりがちです。絶えず見直しが必要でしょう。しかし、要約的時代観によって文化史が分かりやすくなり、先へ進みやすくなったこともまた確かで、レッテル貼りによって見落とされた要素を、どうやってクローズアップするかに、当面専念したいと思います。

この本は「未解明、論争となっている55の疑問に答える」という謳い文句で、時代別に合計55人の研究者が1項目ずつ執筆しています。中世は立項にやや手薄な感があり、自分が疎いせいか他の時代が面白い。源氏物語記紀からは「物語とは何か」について、万葉集の復元の話からは書物の形態の意味について考えさせられ、たいへん有意義でした。