瑞風

豪華列車で行く旅が話題になっています。九州一周は未だしも、山陰本線一泊二日の旅には違和感を覚えました。あの辺は、路線バスや単線の列車を延々と乗り継ぐか、自転車・バイクなどで道を辿って行って初めて、土地柄のよさがわかるルートではないでしょうか。城崎から鳥取へはたっぷりと草の中を流れる円山川沿いに、鳥取から白兎海岸、東郷池汽水湖です)、淀江、名和の海岸線は明るい夏の景色と共に、私には記憶されています。竹取伝説、古事記から太平記まで、さまざまな伝承が残っている所です。考古学的にも貴重な遺跡遺物が多い。

松江・出雲を出てから江津、浜田、益田と下っていく海岸線は、窓下の断崖に白く波が打ち寄せ、叢に点々と咲く朱色の百合の花が印象的でした。風景は厳しく寂しいようですが、この辺は雪舟の造った庭や日本料理の有名な料亭などがあり、萩へ仕事で行った帰りに益田で途中下車して、素敵な夕食を摂ったこともありました(山陰本線は駅弁のある駅は少なく車内販売もごく一部しか来ない)。

萩、長府、下関はそれぞれ歴史のある町です。鳥取から萩へ国文学研究資料館の依頼で文献調査に行き(JRで最短9時間かかった)、物指しを忘れたことに気づいて駅員に文房具屋を訊いた(何せ通行人がいない)ところ、「近くにはない」との返事。途方に暮れた(文献調査に物指しは必須)のですが、用途を聞いたJR職員たちが、「それじゃゲージをやろう」と言って、鉄道工事で使う紙の物指しをくれました。軽くて正確なので、30年後の今も、私の「緊急調査セット」に入れてあります。