國語國文特輯号

雑誌「國語國文」が3号合併で大谷雅夫さんの退職記念号を出しました(臨川書店)。全712頁、53本の論文が載っており、壮観です。これでも平成4年以降のOB全部ではないようで、まさに多士済々の京大ならでは、です。まえがき・あとがきがあっさりしているのもいい。

まずは大谷さんの御論「「歌はをさなかれ」の思想」から読みました。平安末期の歌人俊恵が主張した理想が、古義堂の「詩経」論にある「思無邪」を媒介として近世になって受け入れられ、国学者たちからは万葉集の歌の中に見いだされて、朱子学の倫理的文学観に対置されたこと、同じく平安末期の顕昭が唱えた「はかなく」よむという歌の理想も同様であったことを、縦横無尽に論じています。

専門外だからかも知れませんが、楽しく、のびのびと読めました。学生時代に中村幸彦論文を読んだ時の気分を思い出しました。京大へはかつて夏の盛りに集中講義に行き、あまりに暑いので、落成したばかりの冷房入り新校舎(未だ黒板にはビニールシートがかかっていた)を使わせて貰いました。ところが慣れていないので、週末にはみんな風邪気味になってしまいました。当時から研究室の管理は院生の当番になっていて、お昼には隠れ家風のしゃれたランチの店へ連れて行ってくれました。京都の裏町なので、もう一度行ってみようと思っても探し出せません。

あの頃の院生たちの論文を、これからゆっくり読もうと思います。京大の伝統で、みな漢文学と国文学の両分野に跨がったテーマを抱えていました。