清水の冠者

戸倉みづきさんの「国立国会図書館蔵『清水の冠者』攷―挿絵紙背を巡って-」(「汲古」71)を読みました。国会図書館蔵の奈良絵本「清水の冠者」中巻4オの紙背にある墨書は説経浄瑠璃「こ大ぶ」の一部であることを発見、このことから①「「こ大ぶ」の物語が奈良絵本の形で存在していたということ」、②「また両作品が同じ工房において扱われていたということ」を示すとして説経浄瑠璃「こ大ぶ」は謡曲「甘楽太夫」の略本とみられること、そして「清水冠者物語」も「新謡曲百番」に含まれる「清水冠者」の略本で、神宮文庫蔵絵入り刊本「清水冠者物語」は古浄瑠璃だったのではないかと類推しています。

限られた枚数の論文ですので、少々先を急いでおり、上記の①②の段階でもすでに確認したいことがあります。そもそも紙背とされる詞章と挿絵では、どちらが料紙の表にかかれているのでしょうか?清水冠者の名前は平家物語諸本によってゆれがあり、それだけを本文継承の証拠にするのは危険です。大きな展望を断定的に言い切っているので、分かりやすくはありますが、選評にもあるように、これから論証の間隙を埋める際にはもう少し疑り深くあって欲しい。

しかし古浄瑠璃と奈良絵本、絵入り刊本などを同じグループに属する文化として研究することには賛成です。中世の幸若と御伽草子なども詞章や場に共通性があり、ジャンル分けは後世の研究者である我々の都合に過ぎません。戸倉さんの提言は大いに可能性のあることです。