早歌

岡田三津子さん編著の『資料と注釈 早歌の継承と伝流―明空から坂阿・宗砌へ―』(三弥井書店)という本が出ました。早歌は宴曲ともいい、中世の武士たちに愛好された歌曲ですが、彼等にとっての「古典」の語句をびっしり鏤めた詞章で出来ており、その大半は14世紀初頭に明空によって作られたとされています。

本書は岡田さんが、6年間に亘る科研費による道行文研究の報告書として出したものですが、早歌研究の大先輩外村南都子さんから資料提供を受け、落合博志さんと共に新出資料を精査することによってできた本です。宴曲集の伝本一覧、古写本書誌一覧、故外村久江氏の早歌研究資料補訂版、早歌文献目録なども載っています。恩師である故伊藤正義氏の衣鉢を受け継いだことを立証する、岡田さんにとっても節目となる本でしょう。

武士に愛好された割には詞章が古風で、しかも芸能としては現存していないので、あまり知られていない早歌ですが、中世人や後代の文芸に与えた影響を考えると大きな存在です。私たちも文献調査の際、古筆手鑑などに貼り込まれた宴曲(早歌)の譜に時々出会うことがありました。泉下の外村久江氏のご意見を聞きたかった気がします。