日記の家

松薗斉さんの『日記に魅入られた人々』(臨川書店 ¥2800)を読みました。楽しくてすいすい読める本、通勤車中などの読書にお薦めします。中世から近世初期の漢文日記・宮中の女房日記8種を取り上げて、その記主・時代・各日記の性格を描き出した本です。面白く、分かりやすい。中世に対するこれまでの思い込みが打破されます。

この本の背景には松薗さんのこれまでの仕事ー『日記の家』(吉川弘文館 平成9)、『王朝日記論』(法政大出版局 平成18)、『日記で読む日本中世史』(元木泰雄と共編 ミネルヴァ書房 平成23)、さらについ最近出た『中世日記の世界』(近藤好和と共編 ミネルヴァ書房)などの厳格な作業が強固に張り付いています。だからこそ安心して楽しめるのです。

松薗さんは九州のご出身、九大では合唱団に所属していた由で、美声の持ち主です。名古屋に勤めていた頃、ワンルームのアパートの換気扇から、夜な夜な隣のカラオケビルの歌声が流れ込み、閉口しました。研究会でその話をしたら、美濃部重克さんや松薗さんから、じゃ一度カラオケへ行ってみるかと誘われ、初体験ではまりました。松薗さんの持ち歌は「我が良き友よ」、声がよく伸び、曲想にぴったりでした。

イタリア中世との比較がよく取り上げられていますが、松薗さんは毎年イタリア郊外を歴訪、ワインやオペラを満喫しておられるようで、本書を読んで、ただの観光ではなかったのだと腑に落ちました。『ともに読む古典』(笠間書院)に書いて頂いた原稿もこれらの仕事から生まれたものです。草稿を拝見して、面白いが長すぎる、ちょっと難しい、とぼやきメールを送ったところ、一晩で書き直して下さいました。誰にでもできることではありません。