保元と平治

阿部亮太さんの「認識としての「保元・平治」―物語は院政期の動乱をいかに捉え直すか-」(「国語と国文学」4月号)を読みました。保元物語平治物語平家物語の3作品が、保元の乱平治の乱を一括して捉え、「保元・平治」という呼称と認識の型を定着させた初めての歴史文学であり、過去の動乱を新しい観点から見直そうとしていて、後代に大きな影響を与えたと説いています。視野の大きなテーマに取り組んでいる点において、近時の院生論文には珍しく、今後に期待させるところがあります。

ただ、軍記3作品の両動乱に関する情報源が同一であるという推測は飛躍しすぎです。否、この論文は素材論や作者捜しとは別途であるが故に意義がある、と私は考えます。中世人たちの歴史認識とはどのように形成され、どれだけ相互に影響し合ったのか、広い領域に亘って見ていく過程で、何かが判ってくる、というものではないでしょうか。

保暦間記を取り上げていないのは何故でしょうか。芸能の世界でははやくから壇ノ浦の平家滅亡を元暦元年とするのは何故か、「治承物語」は果たして平家物語なのか等々、これから巨大な難問にぶつかっていくことになるので、基礎堅めをしっかりと、自分の論の目的を見失わないように続けて欲しいと思いました。