汀と渚

北村昌幸さんの「『平家物語』の汀渚―敦盛最期の舞台―」(『浜辺の文学史』三弥井書店)という文章を読みました。一ノ谷合戦の後、熊谷直実平敦盛を討ち取る場面の平家物語諸本、芸能、絵画などを見渡して、勝者と敗者、源氏と平氏等の2項対立を明確にする汀線について考察しています。

覚一本平家物語は、意味内容に幅のある「渚」でなく、「際」の響きを含む「汀」という語を使って、つわものたちの運命を分かつ、ぎりぎりの境界を印象づけているという指摘は面白いと思いました。汀は「水際」から生まれた語ですが、渚の語源には定説がなく、「波」と関係があると考えられているようです(思いつきですが、「凪ぐ」という動詞と接尾語の「さ」とに関連させては考えられないでしょうか)。

この本は「◯◯の文学史」というシリーズの1冊として、一般読者にも古典の面白さを伝えるエッセイを集めており、紙数や方法に制約があったのでしょうが、語誌の検討はもう少し突っ込んでみる必要がありそうです。