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発表要旨

3月19日の明翔会第2回研究報告会の発表要旨です。たいへん広範囲な分野にわたる報告会なので、どれか関心のある部会だけでも参加して頂ければ幸いです。会場は駿河台記念館(千代田区神田駿河台3-11-5)。

 

■第一部会 美学・美術史■ 9:10―11:20

 

◆発表1◆  大城 さゆり

『島の女』から『紅型の女』へ

ゴーギャンのイメージを基にした大城皓也の女性像に関する一考―

沖縄で二科会員として活躍した洋画家、大城皓也が制作した『島の女』(1943年)は、唯一現存が確認される大城の戦前の作品である。そのモチーフや描き方から、明らかにポール・ゴーギャンの作品を基にしていると言える。さらにこの『島の女』の女性像は、大城が戦後に描いた『紅型の女』(1955年)に発展した。そこに描かれている紅型を纏った半裸の女性像は、戦前に描かれていた「南洋の女性のイメージ」と類似するのである。

今回は、ゴーギャンの影響を受けた「南洋の女性イメージ」が「沖縄の女性イメージ」に転化される過程を検討し、他者からみた南のイメージを受容して沖縄の女性像を描くことが意味することを考察し、発表する。

◆発表2◆  森 結

ルカ・シニョレッリにおけるグロテスク装飾の創出

―オルヴィエート大聖堂サン・ブリツィオ礼拝堂から《フィリッピーニ祭壇画》まで―

イタリア・ルネサンスの画家ルカ・シニョレッリは、当時復興しつつあった、グロテスク装飾(十五世紀末における皇帝ネロの宮殿、ドムス・アウレアの発掘とその内部装飾の発見を経て、当時の画家たちに普及した動物、幻獣、植物等が混交した文様)をいち早く導入した画家の一人に数えられる。しかしながらその装飾の語彙に深く分け入る研究はこれまで見受けられなかった。そこで本発表ではシニョレッリに不朽の名声を与えたオルヴィエート大聖堂サン・ブリツィオ礼拝堂の壁画装飾、そして後年の作品である《フィリッピーニ祭壇画》に描かれたグロテスク装飾を例にとり、画家が本来のドムス・アウレアのグロテスク装飾に倣いつつも、同年代の画家の装飾の語彙をも導入し、装飾という場にも創造性を見出しながら、装飾の図案を創出していった過程に光を当てたい。 

◆発表3◆  成田 愛恵

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー作《ノクターン 青と銀色:チェルシー》におけるジャポニスム研究の現状

19世紀後半にイギリスで活躍したアメリカ出身の画家ジェームズ・マクニール・ホイッスラー(James McNeill Whistler 1834-1903年)はレアリスム、ジャポニスム、ラファエル前派、ギリシア趣味、唯美主義といった同時代の様々な芸術動向に触れ合い吸収することで独自の芸術を作り上げていきました。なかでも1850年代後半から、万国博覧会を機に西欧諸国に広がったジャポニスムは、ホイッスラーの芸術形成において大きな役割を果たしたと発表者は考えています。そこで彼のキャリアの中間に位置する1871年作の《ノクターン 青と銀色:チェルシー》におけるジャポニスム研究の現状を概観し、彼と19世紀イギリス芸術のジャポニスムについての研究報告といたします。 

◆発表4◆  龍 真未

ヴァランシエンヌ黙示録》の造形原理 ——モティーフの反復表現を通じて——

ヴァランシエンヌ黙示録》(ヴァランシエンヌ、市立図書館 Ms. 99、9世紀第1四半期)は、造形的変遷の道筋においてノーサンブリアを経たと推察される黙示録写本である。主要モティーフのみを採用し副次的要素を省くという挿絵の造形的特徴は、姉妹写本《パリ黙示録》(パリ、国立図書館Ms. nouv. acq. lat. 1132、10世紀初頭)以外には、本作品とほぼ同時期に制作された《トリーア黙示録》(トリーア、市立図書館 Ms. 31)のみならず、後代においても見られない。本報告では、天使像の反復表現と巧みなレイアウト構成が特に際立つ「七つのラッパ」を主題とした一連の挿絵(fol. 16r, 17r, 18r, 19r, 22r)を中心に、神学的背景を踏まえた図像解釈を試みながら造形的構築の規則性を探る。

 

■第二部会 宗教・教育学■ 13:00-14:20

 

◆発表5◆  小坂井 理加

中世後期ブルターニュにおける巡礼と地域社会 ―「ブルターニュの七聖人の巡礼」を中心に―

巡礼は、西洋中世社会において聖人崇敬の発展と共に多様な階層に浸透していた。人の流れは経済的な利益を各地にもたらし、地域の人々は聖地を中心として社会的活動を行う。聖と俗の交差する現象として巡礼は、当時の人々の心性や社会像を読み解く鍵となる。

本研究では、とりわけ土着の聖人への信仰の篤かったブルターニュ公国において公領全体に散らばる聖地を結び付けた「ブルターニュの七聖人の巡礼」を手掛かりに、一義的な宗教的側面に加えその社会・経済的機能、ブルターニュ継承戦争やフランスへの併合など歴史的な転換点にあった14−5世紀ブルターニュの政治的背景といった多角的な視点から巡礼の果たした役割について考察することを目的とする。 

◆発表6◆  藤井 明

異宗教間の混交のシステム―仏教ヒンドゥー教を中心に―

異宗教間の融和の糸口を探るために、近似する内容を備えるヒンドゥー教版と仏教版の両版が存在するBhūtaḍāmaramahātantrarājaあるいはBhūtaḍāmaratantra内の発話者に着目し、両宗教間の関わりを見ていく。また、密教的修法の中に見ることの出来る殺を伴う「降伏」という行為が、異宗教を聖化し、巧みに混交していくための「混交のシステム」の役割を果たしていることを述べる。更に、この行為がいかに仏教的に合理化されているかを考察する。これらは「異宗教間の混交のシステム」を考察する上での材料となるであろう。 

◆発表7◆  秋吉 和紀

古典教材を用いたジェンダー教育の実践

高校生の学校生活の中での発言を注意深く聞き取ると、ジェンダーに関わる不用意な発言が多いことに気がつく。そこで、単元の目標を以下の二つとし、国語の実践を行った。その目標とは、①普段は意識されることのない「ジェンダー」を学習者に意識づけることに、また、②社会の中でみてとれるジェンダー規範が、またそうしたジェンダー規範を主体化した自身の中にあるジェンダー感覚がいきすぎている場合には、学習者がそれを「調整」できるようになることである。本発表は、この目標をもとに、古典教材を軸として行った授業をまとめたものである。

 

■第三部会 文学・史学■ 14:40-16:00

 

◆発表8◆  木下 佳奈

黄春明の作品における、日本統治期から続く台湾社会の表れと人々

黄春明(1935~)は1960年代から近年まで中短編作品を発表してきた、台湾本省人作家である。その作品の多くは現代化が進む農村や都市の中低層に生きる庶民を描いており、往々にして、登場人物たちの生き方を通じて過去から現代までの台湾社会の様相を映し出している。

本発表では黄春明の作品に表された、台湾社会における日本統治期との繋がりを「記憶」、「体験」、「言語」という3つの観点から取り上げ、その中で生きる多様な登場人物たちに焦点を当てる。主として日本統治期と関連した作品から、台湾における日本統治時代の記憶を台湾の民衆はどう受け止めているのか、そして、黄春明がその記憶と民衆の感情を、作品を通じてどのように表現しているのかを考察してゆく。 

◆発表9◆  村田 岳

南宋末の科挙政策―咸淳六年の士籍作成について―

国史上に於いて宋代(960年~1279年)はそれまでの 層に代わり、 興階 である士人層が力を持った時代とされ、この士人層はその性質を幾分か 変化はさ ながらも、明清期(14世紀~20世紀)を えて民国期にまで地域社会の代表者という地位を 持した。そしてその士人層の発生と成 に大きな影響を及ぼしたのが 採用試験である科挙である。かかる 要性に基づき、宋代科挙研究は多くの成果を できたが、科挙が中 していた元代をどう考えるのか、という 題は未 検討の 地が残されている。本報告ではかかる 題意識に基づき、南宋最末期に於ける士籍作成という史料を分析することで、当 例を科挙社会史上に位置づけることを試みる。 

◆発表10◆  安藤 香織

民衆学校教員と「ドイツ帝国」: プロイセン師範学校教員ケラー

1871年1月、敵国フランスのベルサイユ宮殿でドイツ帝国の成立が宣言され、「ドイツ国民」の悲願であった「ドイツ」統一が達成された。プロイセン王国バイエルン王国といった22邦国と3自由都市から成るドイツ帝国は、外交上の権限を構成国より委ねられていた一方、内政 題については統一前と変わらずに各邦の主権を認めていた。中でも教育行政は地域色が強かったため、各領邦・地域における教育史研究は多くあっても帝国全体を概観するものはあまりない。本報告では第二帝政期のプロイセン文部省と帝国政府とのやり取りに焦点を当て、帝国と国、国と州といった多層的な行政範囲における学校のあり様と帝国における教育政策の意義を明らかにする。

 

◆ 記念講演◆ 宮村りさ子(東京成徳大学専任講師) 16:10-16:40

グループを対象にした子育て支援プログラム