なぜ57577愛

必要があって、錦仁編『日本人はなぜ、57577の歌を愛してきたのか』(笠間書院 2016。書名が長すぎる!ご無礼して略させていただきます)を取り寄せて読みました。和歌をもっと身近に、というキャンペーンの一環として企画され、研究者10人と実作者4人の「エッセイ」風の文章(分かりやすく書けという指示の下、けっきょく論文から科白劇までスタイルはいろいろ)を載せた本です。宇津木言行さんの、方言を使って詠んだ西行歌の読み解きは有益でしたし、中村文さんの、伝統と革新の問題を源俊頼から俊成・定家へと辿った論考が充実しています。面白かったのは島内景二さんの「六義園から歌を見る」。小石川育ちなので10代の頃には六義園へよく遊びに行きましたが(当時は池と松と芝が美しい庭園で、躑躅が名物。枝垂桜は最近売り出した新顔)、こんな風に広く、有意義な問題を展望できる題材とは思いもよらず、大いに蒙を啓かれました。

実作者の文章では佐藤通雅さんの「私の短歌―震災以後」に惹かれました。震災後、すぐかたわらに死者がいる、その人々の分まで語らねば、という気持ちに衝き動かされ、定型に支えられつつことばを紡ぎ、しかし1ヶ月後、自分が死んだとは知らない死者たち(しばしば幽霊のように顕れる)の存在に気づいてはたと歌えなくなり、再び定型に助けられて、死者たちとの間に架橋する心算で歌作を始めるまでを述べた文章です。軍記物語の鎮魂とは通じるところ、異なるところの両方があるーじっくり考えてみたいと思います。