太平記の論

和田琢磨さんの論文「乱世を彩る独断―『太平記』の天皇たち-」(『東洋通信』53:6)を読みました。太平記は序文に、名君と良臣によって国は保たれる、という、これから語る物語の枠組を示しているにも拘わらず、登場する天皇はすべて、臣下の意見を聞き入れず、私心私欲を差し挟み、独断で物事を決するところがあり、これが乱世を継続させた一因と語られている、と指摘しています。ちょっと意外な指摘のように見えますが、太平記が決して天皇賛美一筋では無いという読みは重要です。尤も、後日に失敗となる決断を敢えて決める役は天皇に振るしかなかったのだ、という言い方も可能で、その方が歴史文学の本質を抉る作品論へ向かって行けそうな気もするのですが・・・如何でしょうか。

太平記は戦後しばらく研究が敬遠されていた期間があり、今年あたりから、太平記研究の枠がひろがり、彩りゆたかになることを希っています。