日々雑録

房総半島

西の方から羽田へ帰ってくる時、たまに飛行機は房総半島を旋回しながら降りていきます。九十九里浜の弧が目に入って来るまで、かなり盛り上がった山林地帯が続き、一体どこかな、と思ったりしたものでした。千葉県が広域な山と森であることを、首都通勤圏と…

積木的議論のために(3)

学部時代(52年くらい前です)、近世文学の先生が授業時に、「無用の用」論をぶったことがありました。その当時から、大学教育に文学は必要なのかという論調はあったのです。先生は、田の畔がなければ田は作れない、という『老子』の一節を引いたのですが…

パン屋の開業

行きつけのパン屋が突然閉店し、あちこちでパンを買ってみては失望を繰り返していましたが、久しぶりに通ってみると、新規開店の予告が出ていました。その後開業延期の貼り紙が出て、何度も無駄足を踏みましたが、やっと開いたので入ってみました。 以前は3…

枕草子本文

沼尻利通さんの「東松本『大鏡』裏書所引枕草子本文の検討」(「福岡教育大学 国語科研究論集」60号)という論文を読みました。『大鏡』はもともと巻子本仕立だったらしく、裏書があります。その中に引用されている『枕草子』の本文が、どの諸本に近いかを…

積木的議論のために(2)

たくさんの人を見てきて、就中その晩年を見るようになって、つくづく思うのは、人の一生には、消費的人生と、(何がしかの)生産的人生とがあるのだなあ、ということです。どちらが上ということはありません。「生産」とは、子供を作るとか物作りを仕事にす…

全訳注平治物語

谷口耕一・小番達共著『平治物語 全訳注』(講談社学術文庫)が出ました。 文庫本とはいえ650頁を越え、情報のびっしり詰まった1冊です。谷口さんは永年、平治物語の注釈稿を抱え続け、紆余曲折を経ていま会心の著として世に出すことになりました。 底本…

定年後の買い物

日本橋三越へ出かけました。濱田友緒作陶展が目的でしたが、生活方法が変わった故の、諸々必要な買い物もありました。杖を突くようになったので、肩に掛けるエコバッグを使っていたのですが、ちゃんとした、軽くて大きなバッグを、と鞄売り場へ行ってみまし…

積木的議論のために(1)

高校の頃、古文や英語がなぜ面白かったかというと、(特に英語の場合)単なる記号(ABC)の羅列でしかないものが、辞書を引き、自分の想像力を動員してつなげていくと、意味を持って生きて起ち上がってくる、その悦びだったと思います。知らない世界が眼前に…

辞退率

就活援助をうたうビジネスが、辞退率を予測するデータを勝手に売っていたのは、個人情報保護法に触れるとして警告を受けたそうです。そういうビジネスが成り立っていることを知った時は憤慨し、就活生に同情しました。説明する機会のない情報で将来を判断さ…

日脚

台風の後、猛暑が戻ってきました。36度を越えると肌で分かります。自分自身が一番冷たいわけで、家具も食器も、さわる物みな温かい。昨日は午後からの陽ざしでしたが、今朝は日の出から。おまけにベランダの陽光が次第に家の中に近づいてきて(そうなる設…

台風前夜

宮古島のシェフから電話がかかってきました。ホテルの副料理長から独立して、小さなランチの店を出し、1年になります。いま宮古島は、下地空港(島で2つ目の空港です)ができ、近隣の島々に橋が架かり、観光客が増えて、店もそこそこ流行っているらしい。…

夏は過ぎ

終日、写本と対峙して過ごしました。源平盛衰記の版本の展開を追う共同研究に便乗させて貰って、16世紀前半の本文とも言われた写本を調べ始めたら、腑に落ちないことが続出。こちらの書誌学的経験が足りないせいばかりではないようです。ひたすら墨の色、…

古代心性表現

森正人さんの『古代心性表現の研究』(岩波書店)という本が出ました。前書きによれば、「本書は、古代日本における心性すなわち心、魂、霊およびその他の超自然的存在の性質や働きに対する理解、また死生観、冥界観、およびこれらに関する表現の成立と特質…

食用菊

スーパーで食用菊が売れ残っていたので、1パック買いました。黄色い菊花です。1輪はカクテルグラスに浮かべて、洗面台に飾りました。TVニュースを視ながら残りの花弁を毟っているとー画面では児相がまたも対応は適切だった、と言い張っています。適切だ…

トマト

現代のトマトは匂いがありません。あるよ、と言う人は、かつての(本来の)トマトの臭いを知らないからです。買い物から帰ってきた家人が通ってきた道を言い当てることができる(あ、今日はトマト畑の傍の道だったね)ほどでした。 子供の頃、井戸水で冷やし…

沈黙の秋

32度が分岐点、と思うようになりました。どうにか耐えられる暑さの限度です。最近の東京は、半世紀前よりも3~4度、平均気温が上がっているのではないでしょうか。10代の頃は、今日は30度もあって暑いねえ、と言っていたのに、今は30度なら、今日はしの…

烏賊を煮る

原稿の下書きを1本、やっと書き上げたらもう6時。外へ出てみると雨が降り始めていたので引き返し、傘を持って買い物に出かけました。行きつけの肉屋は、今日は私が最後の客。女将が「烏賊、食べる?」と言う。手伝っている娘が、慌てて指を口に当てました…

ひも

最近、やたらに「ひもとく」という語を使いたがる風潮が気になっています。もともとは、本を読む、本の頁を開く、といった意味(文語)でしょう。和装本の帙の紐をほどいて本を開く意、もしくは巻子本の緒を解いて開く意だったと説明されています。ですから…

私的太平記研究史・拾遺

後醍醐天皇は元弘の変に敗れ、元弘2(1332)年隠岐へ流されました。あくまで天皇としての装束を脱がず、出家を拒んで日課を続けたと『太平記』にはあります。翌春、天皇は小さな商人船に乗って脱出し、名和湊に上陸、地元の名和長年一族の掩護を得て追…

西国巡礼縁起

大橋直義さんの論文「西国巡礼縁起攷―附 道成寺蔵『古伝口訣 西国三十三所巡礼縁起』翻刻」(『説話の形成と周縁 中近世篇』臨川書店)を読みました。中世のいろいろな作品中にしばしば見出される、西国三十三箇所霊場巡礼の始まりと花山天皇を結びつける説…

軍記・語り物研究会大会2019

紀伊田辺市で開かれた軍記・語り物研究会大会に出かけました。大会日程は3日間ですが、前後の2日は事前予約制だったので、仕事仲間と2人で、25日の午後は闘雞神社(境内には、壇ノ浦合戦直前に、源平どちらに就くべきかを占う闘鶏が、弁慶立ち会いで行…

白河

学部2年の夏(昭和39年です)、奥の細道一周旅行に出かけました。「この指止まれ」で集まった、同級生9名というがやがや集団です。初めての自由な集団旅行だったので、新奇な体験(それぞれ異なる家庭のしつけを目撃した)の連続でした。 当時は、東北本…

日本郵政

郵便は、土曜配達をやめるそうです。最近の日本郵便のやり方を見ていると、素人目にも、本気で経営を考えているとは思えません。今どきどの企業も、油断すれば苦しくなる経営を必死に持ち上げようとしている御時世の中で、メールや宅配に追い上げられて需要…

箸尾弁天縁起

辻浩和さんから、大和国広瀬郡箸尾弁財天の縁起集『瑞夢記』(大福寺蔵)に関する論文(「大福寺所蔵『瑞夢記』について」日本文学研究ジャ-ナル10)と、『瑞夢記』の中巻第5話「遊女梅王蒙御利生事」の翻刻が送られてきました。『瑞夢記』は、奥書によれ…

つしま

歯医者に出かけました。夕立の来る前に、と早めに出て、本屋に寄りました。本屋に入って手ぶらで出て来られないのが、我が家の家風。あちこちの棚から本が目配せしているような錯覚に囚われます。当分、日本史と国文学の本は読みきれないほどの山があるのだ…

ノートルダムの雲

巴里に別荘を持っている神野藤昭夫さんからメールが来ました。毎日、だいたい23度くらいの最高気温だが、40度超えの日もあり、大家から扇風機を借りてしのいだ、とのこと。夫妻でブルゴーニュを訪れたり、気の利く娘さんが金婚式だからと言って上席を予…

雲の美しい夏、というものがあるようです。1999年の夏、放射線治療を受けていた父が入院する川崎へ向かう高速道路の空に伸びる雲が、鮮やかでした。今年はどうしてこんなに雲が美しいのだろう、と思いました。2012年の晩夏、壇ノ浦の赤間神宮を訪ね…

記し遺す

古代中国で、正しく政治の記録を遺すことは命を賭けるに値するとされていた、という有名な説話があります。暴王の悪逆を国史に記した記録係(史官)が怒った王に殺され、にも関わらず、頑として書き残そうとする者が絶えず、遂に王が諦める話です。原話は『…

湖畔小学校

我が家には祖父が北海道の釧路へ行って小学校を建てた、という話が伝わっていました。祖父は博多の大工の棟梁でしたが、私が幼いうちに亡くなったので、私には何も記憶がありません。2006年、釧路へ集中講義に呼ばれた時、学部時代の先輩がおられたので…

送り火

三好行雄先生は工学部の出身でした。終戦時は、何のためかも分からず毎日曲線を引かされていた、後で知ったがそれらは特攻機の翼の設計図の一部だった、それが空しくて文学をやろうと思った、と話されたことがあります。 論考は緻密で論理的、『作品論の試み…