日々雑録

清水の冠者

戸倉みづきさんの「国立国会図書館蔵『清水の冠者』攷―挿絵紙背を巡って-」(「汲古」71)を読みました。国会図書館蔵の奈良絵本「清水の冠者」中巻4オの紙背にある墨書は説経浄瑠璃「こ大ぶ」の一部であることを発見、このことから①「「こ大ぶ」の物語…

梔子の花

我が家の梔子が咲き始めました。20年前、宇都宮大学の同僚から頂いた枝6本を挿し木し、知人たちにも分けましたが、今は私の背丈より高くなり、ベランダの目隠しの高さに合わせて剪定しています。八重の純白の花が開いてゆく時は惚れ惚れします。青虫がつ…

史実と人物造型

清水由美子さんの「『保元物語』の流動―平基盛の造型をめぐってー」(「中央大学文学部紀要」 119号)を読みました。基盛は早世した清盛の次男で、語り本平家物語では殆ど抹殺された存在ですが、保元物語では、保元元年7月6日、崇徳院に参上しようとす…

版本

高木浩明さんの「本文は刊行者によって作られる―要法寺版『沙石集』を糸口にしてー」(「中世文学」62)を読みました。要法寺の日性によって版行された『沙石集』の古活字版2種を比較して、別版のように見える慶長10年版と無刊記版とが、じつは同版の匡…

桑の実

街路樹の下の植え込みになぜか1本だけ別種の木が枝を伸ばしていることがよくあります。たいていは桑の木(たまにそよごの木)です。桑畑が見かけられなくなった東京でも、鳥が落として生える種子は桑の実なのでしょうか。意外に桑の木(それも種類が何種か…

文学散歩

信濃から上京した友人姉弟に、近所の文学遺跡を御案内すると言ったのはよかったが、地元の近代文学関係の旧跡のことなど何も知りません。泥縄でイラストマップを買い、にわか勉強。地元の者は、あそこでしくじって叱られた、ここでは◯◯が手に入る、といった…

見果てぬ夢

三角洋一さんの遺稿集『中世文学の達成―和漢混淆文の成立を中心に-』(若草書房)を読んでいます。殆どが講演録や講義ノートをもとにしているので分かりやすく、硬い本ではありません。しかし、壮大な課題に、背伸びせず自前の言葉で取り組んでいく、いわば…

鴨東通信

きっと待たされるだろうと、ツンドクの山の中から抜き出した小冊子を持って銀行へ出かけました。拾い読みしているうちに視線が止まりました―「特定の理論体系に史料を〈埋め込む〉姿勢」、「あたらしい理論ないし巧妙なレトリックで古典テクスト理解に新機軸…

アメリカン・チェリー

黒っぽく熟したアメリカン・チェリーが店に出ています。一年中出回っているような感じですが、噛むとぷつっと音がしそうに果肉の充実した、旬の季節があることを知りました。子供の頃読んだ「トムおじさんの小屋」(アンクル・トムズ・ケビン)に、主人公の…

早歌

岡田三津子さん編著の『資料と注釈 早歌の継承と伝流―明空から坂阿・宗砌へ―』(三弥井書店)という本が出ました。早歌は宴曲ともいい、中世の武士たちに愛好された歌曲ですが、彼等にとっての「古典」の語句をびっしり鏤めた詞章で出来ており、その大半は1…

印度の壺

暑くなってきました。真夏にはベランダの照り返しで半身だけ日焼けします(机がベランダ側にあるので)。連日の暑さで夜になってもコンクリートが冷えなくなると、つらい。かつてインドへ行った時、素焼の壺に水を入れて売り歩く人がいました。素焼の肌から…

夢中の五感

子供の頃、夢は白黒で見る、ということが分かりませんでした。私の夢の中の世界は、通常の世界とまったく同じようだったからです。しかし「私の夢はカラーよ」と言ったら、「自慢してる!」と怒った大人がいたので、それ以来口に出せず、白黒の世界にとつぜ…

文字摺

買い物の帰りに、ビルの軒下の僅かな土に、もじずりの花が咲き始めているのを見つけました。本来、芝生など日当たりのよい平地に生える蘭科の草です。葉が芝とそっくりなので、手入れのいい庭園でも除草を免れ、季節になると、小さなピンクの噴水のようにい…

転法輪鈔

牧野淳司さんの「『転法輪鈔』解題」(「国立歴史民俗博物館研究報告」188)を読みました。国立歴史民俗博物館蔵(田中穣旧蔵)『転法輪鈔』の紹介及び「転法輪鈔」と呼ばれる資料群の中での位置づけ、著者澄憲の意識について述べています。ここ十数年に…

山椒と梅干

近所の公園で山椒の木を見つけ、小指ほどの枝を失敬しました。葉をこすると得も言われぬ芳香にうっとりさせられます。粉山椒は鰻には欠かせませんが、あの乾いた香りとは違って、もっと甘く艶めかしく、ねっとりした芳香です。食卓に飾るだけでは満足できず…

説林

伊藤伸江さんの「花園山考」(「説林」65号)という論文を読みました。説林(ぜいりん)はかつて渥美かをる先生が、その後森正人さん、黒田彰さんがよくお書きになった名門の紀要(愛知県立大学)です。伊藤さんの論文は、三河国岡崎の俳人鶴田卓池と刈谷…

梅シロップ

梅を漬けました。梅干しではなく梅シロップ(梅ジュース)とか梅酢と呼ばれている飲料です。もともと頂き物の蜂蜜2L用の空瓶が溜まったので、毎年2kgずつ漬けて近所に分けていたのですが、だんだん重い物を持てなくなり、小梅で漬けたり(ちゃんと出来…

夏仕様の表紙

ブログの表紙を夏仕様に替えました。ハワイの浜辺を描いたクレパス画で、表紙のサイズに合わせ、椰子の木が分かるよう中央部分を残してトリミングされていますが、原画はデュフィばりの速描で、点在する浜辺の人々をお見せできないのが残念です。 原画:松尾…

空蝉の家

親の家を売りました。50年前は南西に富士山、北には年に何度か筑波山が見え、護国寺の杜では時鳥の鳴くのが聞こえ、丸ノ内線の1番電車の出て行く響きが枕につたわってくる家でした。感無量というか脱力感というか、一種の喪失感が疲労となって被さってき…

5月が終わりました。新陳代謝が変わる季節だからか、5月は寝ても寝ても眠い月です。勤めている頃は殊に、新学期のどたばたがようやく一廻りし、演習など学生の顔ぶれを見て授業内容を調整する時期でもあり、春休みに用意した講義ノートも受講者の反応によ…

中古日本治乱記

今井正之助さんの「『理尽鈔』と『中古日本治乱記』『後太平記』ー『太平記秘伝理尽鈔』研究』補遺稿3ー」(「愛教大大学院国語研究」25)という論文を読みました。長くて記号が多くてしかも容易に漢字変換できない題名は、今井さん畢生の大著『『太平記…

日記の家

松薗斉さんの『日記に魅入られた人々』(臨川書店 ¥2800)を読みました。楽しくてすいすい読める本、通勤車中などの読書にお薦めします。中世から近世初期の漢文日記・宮中の女房日記8種を取り上げて、その記主・時代・各日記の性格を描き出した本です…

枇杷の実

かつて、店で売られる枇杷は一種の高級果物でした。季節が短くて傷みやすく、高価だったのです。坪田譲治に、巨大な枇杷の実に誘惑されて、一口囓ると口の中が甘い汁で一杯になり、また一口囓ると・・・という幻想的な童話があり、読むだけで涎が出そうでし…

源平闘諍録

早川厚一さんの「源平闘諍録全釈一二」(「名古屋学院大学論集」言語・文化篇28:2)を読みました。源平闘諍録の巻一上「仁安三年戊子三月二十日・・・」から王昭君説話の終わりまで、講談社学術文庫本『源平闘諍録』でいうと上巻p145~159の注釈…

怪我の高名

先週末、煉瓦の舗道で躓き転倒して、したたかに膝を打ちました。皮下出血が見えなかったのでそのまま歩いて帰り、週明けに医者にかかったら、関節内に出血が溜まっている、靱帯損傷全治3週間と言われました。家の中では花魁のように外八文字で歩いています…

鬼瓦

樋口一葉が通ったという風呂屋「菊水湯」は3年前に廃業、代替わりの後継者がいなかったらしい。銭湯の経営はけっこう重労働なのでしょう。跡地には低層ながらマンションが建ち、屋根の鬼瓦だけが塀際に飾ってあります。お向かいの菊坂には一葉が通った質屋…

気になる語

若い世代の提出書類を読んでいて、気になる言葉があります。ひもとくーどういう意味で使いたいのか?やたらに目立つのです。辞書を引くと、蕾がほころぶ、とか、子供用の着物から大人の帯を締めるようになる、等々の意味も出て来ますが、元来は書物を開いて…

天南星

植物図鑑でのみ、または文学作品でのみ知っていた植物の実物に出会った時の感動は、忘れがたいものです。ああ、これがあの・・か、としばし佇んで想いを廻らせます。 中学校の塀際に見慣れない草の花が咲くのを3年前に発見、その後気をつけて見てきましたが…

旧同僚

夕方、とつぜん電話がかかってきて、鳥取で同僚だった菅原、と名乗られました。一瞬、間を置いて、思い出しました。三十数年前、助教授同士で研究室が指し向かいだった国語教育の菅原稔さんです。その後鳴門教育大、岡山大と異動して定年になった由(時折噂…

平曲の「木曾最期」

鈴木孝庸さんの「平曲「木曾最期」の<語り>―演誦の場から―」(新潟大学「人文科学研究」140号)を読みました。鈴木さん自身が平曲を語る立場から、「木曾最期」の曲節に特殊な傾向が見られることに気づき、詞章の内容との関係を考察した論文です。 平曲…

さらば青春

高校生から大学生時代に弾いていたギターを売りました。クラシックギターの先生に、一生使える物をと見立てて貰った1本です(当時の大学出初任給の、3分の1くらいの値でした)。54年前の製作者の名前も入っていたのですが、買い取り業者からは、ばらし…

薔薇仕事

ベランダの鉢植えの薔薇が開き始めました。還暦になった年に従妹からお祝いに貰った鉢です。毎年5月に大輪の赤い花を、夏には小さな濃いピンクの花を、そして冬に入る前にも赤い花をつけます。専門家は冬の蕾は剪り落としてしまうようですが、薔薇を愛し、そ…

長門切からわかること

國學院雑誌5月号が出ました。拙稿「長門切からわかること―平家物語成立論・諸本論の新展開―」が出ています。昨年7月に投稿するはずだったのですが、諸般の事情で今月号になりました。 新出の長門切(「敦盛最期」2葉、「宇治合戦」2葉、「横田河原合戦」…

組織の能力

このところ、親の家を整理しているので、異なる業種の人たち、チームや組織の仕事ぶりをウオッチングする機会が多い。経験則ですが、顧客に要求することの多い組織は必ずと言っていいほどミスをする。有名な企業であっても個人がいい加減な対応をするところ…

いま欲しい平家物語論とは

「リポート笠間」62号ができあがり、まもなく発送されます。国文学関係の学会会場でも配布されますが、はやく読みたい方は直接笠間書院へご注文下さい。 特集1は「いま全力で取り組むべきことは何か」、特集2は「デジタル化で未来をどう創るか」ですが、…

もより会

学部時代の母校の同窓会文京区支部の集まりがあったので、出てみました。昨年から始まったもより会(同窓会の中の地区ごとの会)です。昨年は十数人だったので、テミルのお菓子を30粒持参して宣伝しようとしたら、今年は40人以上の出席で、足りませんで…

遠雷

大塚駅近くの都電沿線の薔薇を観に行きました。商店街が植え始めたのがもとで、今では有名になり、5月24日までを「薔薇まつり」期間と謳っています。学生時代、この辺のアパートに住んでいたのですが、もう、どこなのかが全く判らないほど、町は変わって…

信濃土産

一昨日長野の農産物直売所から送った宅配便が届きました。旅行に出ると、地元で開発した商品や農産物を買ってみるのが習慣です。今回買ったのは―玉葱のジャム(果たして美味しいのか?期待と不安)、洋梨ジャム、ネクタリンのジャム。林檎とワインのドレッシ…

みすずかる

1泊2日で、30年来の旧友の故郷を訪ねました。みすずかる信濃の松代です。林檎の花を見たい、と頼んで連れて行って貰いました。蕾の外側はぽっと紅色を帯び、開いた花は純白です。山の斜面一面が林檎畑で白くかすんで見え、雪国の春は遅い桜や花桃や水木…

西尾実とフィヒテ

松崎正治さんの「西尾実の国語教育思想における言語観ーフィヒテの言語哲学を媒介としてー」(「同志社女子大学学術教育年報」67)を読みました。日本の国語教育の父ともいえる西尾実の言語生活論の発想源を、1920年代後半から1945年頃までの彼の…

薔薇とオジサン

給水公苑に薔薇を観に行きました。水道局が配水池の上に蓋をして薔薇を植えた公園です。今が真っ盛り、さまざまな種類の薔薇が咲き、空気はその香りで満たされていました。ベンチの端に座って、(日曜版なので)新聞を2時間近くかかって読みました。平日に…

ジャスミン

我が家の素馨花もそろそろ終わりのようです。2週間くらいの間、部屋に流れ込む芳香を楽しませて貰いました。弟が亡くなる前、小さな枝を剪って持って行き、ペットボトルに挿して置いてきたところ、当直の看護師さんが「病室に入るとたんに、いい香りがして…

緑陰

このところ連日、実家の片付けをしたり形見分けの発送をしたりしたので、心身共に疲労困憊。久しぶりに大学構内の大楠の下で、ゆっくり朝刊を読みました。幹は三抱えもあろうという老楠です。すっぽりと若緑色の傘の下に入って、頭上から降ってくる鳥の声や…

奈良絵本「新曲」

山本陽子さんの「奈良絵本『新曲』挿絵の制作過程を考えるー明星大学本と諸本および『源氏小鏡』を比較してー」(「明星大学研究紀要」25)を読みました。奈良絵本とは、近世初期に京都で作られた手書きの絵入り本のことです。「新曲」は太平記中の一挿話…

鴉を飼う

4月21日の本欄「鴉」を読んだ多ヶ谷有子さんから、メールを頂きました。心温まる内容ですので、ご紹介することにしました。 かつては烏は苦手な鳥でした。ところが、35年以上前でしょうか。生物の先生をしている主人のところに、生徒たちが瀕死の烏を連れ…

牡丹

鳥取と島根の間に中海という汽水湖があり、その中に大根島という小さな島があります。牡丹苗の産地で有名で、全国に出荷していますが、かつては女性の行商が主戦力でした。32年前、鳥取に赴任が決まってすぐ、NHKのTVドキュメント(「新日本紀行」だ…

鯉のぼり

鯉幟を見ることが少なくなりました。以前はマンションのベランダから差し出した幟なども見かけたものですが・・・この時季は案外風が強く(薫風といいます)、はたはたと鳴る幟の音は、初夏を呼び寄せる気がします。 弟は団塊世代でしたが、生まれた時は未だ…

保元と平治

阿部亮太さんの「認識としての「保元・平治」―物語は院政期の動乱をいかに捉え直すか-」(「国語と国文学」4月号)を読みました。保元物語・平治物語・平家物語の3作品が、保元の乱・平治の乱を一括して捉え、「保元・平治」という呼称と認識の型を定着さ…

しらす

銀行へ行った帰りにスパゲティの昼食を摂りました。季節限定で「しらすと春キャベツ」というメニューがあったので、どうかなあと思いながら注文してみました。釜揚げしらすがたっぷり乗せられ、小綺麗に盛りつけてあって、チーズ味のソースが意外に合う。春…

臨床死生学

東大の死生学・応用倫理センター主催の講演「長寿時代の臨床死生学・倫理学」を聴いてきました。死生学とは、「死生」を一体としてとらえ、人間が死生をどう理解し対処してきたかを考える学問で、その結果を応用して臨床現場で実践する領域が臨床死生学だそ…