日々雑録

仏を見るということ

本井牧子さんの論文を2本読みました。 『釈迦堂縁起』とその結構(「國語國文」5月号) 海を渡る仏―『釈迦堂縁起』と『真如堂縁起』との共鳴(『ひと・もの・知の往来』勉誠出版) 嵯峨の清涼寺の釈迦像は、自らの意志で辺土日本へ渡ってきた仏である(だ…

河童忌

今日は河童忌です。昭和2年に芥川龍之介が自殺したのも暑い日で、暑さに腹が立って死んだんだろう、と友人たちが悲しみを紛らかすための冗談を言い合ったそうです。 文学を、人生を、教えて貰ったのは芥川からでした。もっと正確に言えば、吉田精一著『芥川…

軍記と語り物

軍記・語り物研究会に出ました。岩橋直樹さん「治承寿永の乱の中の墨俣合戦」の発表は、ちょうど新出長門切とも関係があるので聴きに行ったのですが、とてもよく勉強していることが分かる発表で、幸せな気分になって帰ってきました。墨俣合戦当時の甲斐源氏…

根来寺

大橋直義さん編の『根来寺と延慶本『平家物語』』(勉誠出版)という本が出ました。「紀州地域の寺院空間と書物・言説」という副題通りの15本の論考と、大橋さんの序論が載っています。何回ものシンポジウムの成果が盛り込まれているようで、地元和歌山大…

奨学金問題・その1

奨学金問題に関する新書を2冊読みました。 大内裕和『奨学金が日本を滅ぼす』(朝日新書) 岩重佳治『奨学金地獄』(小学館新書) 前者の著者は教育社会学者で奨学金問題対策全国会議代表、後者は弁護士で同会議事務局長。ほぼ同時に出た本ですが、前者は日…

言葉のマジック

「子供の貧困」という言葉が流通しています。不審な言葉です。いったい、子供だけが貧乏な家庭があるでしょうか。世帯の貧困、社会の貧困を言い換えて、まるで、みんなで何とかしてやらなくちゃ、という議論にさせようとしているかのようです。じつは政策の…

児童遊園

区が半年近くかけて、近所の小さな公園を作り替えました。美濃部知事時代にちょっとした空地を片端から公園にしたものの、小さな砂場とベンチくらいしかなく、木ばかり大きくなって、手持ちぶさたな営業マンが隠れ場にするのにちょうどいい、さびれた公園が…

初蝉

午後、大雷雨。雹も降りました。久しぶりに「天地」という概念が頭に浮かびました。 雨がやみ、今年初めてのみんみん蝉を聞きました。未だつっかかりながらのだみ声です。明日あたり梅雨明け宣言が出るかもしれないと、天気予報が言っています。

銷暑法

梅雨が明けていないといいながら東京は連日の酷暑。我が家は通風抜群ですが日照もまた抜群なので、昨日の暑さが冷めないうちに翌日の太陽が元気いっぱい昇ってきます。素焼の印度の壺に風呂の残り湯を入れておき、打ち水代わりにこぼしたり、色の濃い夏の花…

手嶋大侑論文

日本史の友人から、手嶋大侑さんの論文について感想が寄せられましたので、了解を得て掲載します。 手嶋さんの論文を4本読みました。 ①年官制度発生に関する一考察―貞観13年藤原良房第二抗表をめぐって―、「人間文化研究」21 ②「三宮」概念の変遷と「准…

往来の文化学

内田澪子さんの「長谷寺「銅板法華説相図」享受の様相」(『ひと・もの・知の往来―シルクロードの文化学』勉誠出版)という論文を読みました。内田さんはこのところ長谷寺縁起とその周辺を探究しており、この論文では国宝「銅板法華説相図」の享受と長谷寺縁…

『常識を疑う』

藤巻和宏さんの「中世が無常の時代というのは本当か」(『古典文学の常識を疑う』勉誠出版)を読みました。藤巻さんは『ともに読む古典』(笠間書院)でも、中世が宗教の時代と言われるのは、現代人に都合のよいレッテル貼りに過ぎない、と論じています。た…

新盆

従妹の奥沢の家へ、新盆の線香を上げに行きました。東横線沿線は、かつて資料館が戸越にあった時はよく通いましたが、この頃はとんとご無沙汰です。二子玉川は風景がすっかり変わっていました。 従妹は私と同い年、現役バリバリの保険外交ウーマンでした。仏…

金蓮花を食べる

金蓮花がひょろひょろと伸びすぎ、花付きが悪くなりました。植え替える予定のコリウスはどんどん大きくなり、もう待てない。金蓮花の葉と茎を刈り取って、洗ってサラダに混ぜました。以前、播種で育てたことがあって、種子袋に「食用・観賞用」と書いてあっ…

地下に眠るエネルギー

去年の春、近所の古い木造アパートが取り壊され、更地になりました。前面にあった駐車スペースは三和土で固められて、僅かに十二単や菫が生えていたくらいでしたが、更地になってぽつぽつ草が生え始めました。植物相の形成に興味があったので、通りすがりに…

誤用の語法

若い人の中古文学の論文を複数読む機会があって、ひどく気になったのが「まなざす」という語です。「まなざす」という動詞は無いと思います。少なくとも大きな国語辞典には載っていない。「まなざされる」「まなざした」等の語がちょくちょく顔を出す論文は…

平家琵琶のワークショップ

文京区の芸術文化祭記念事業「日本の響き、世界の調べ―琵琶とシルクロード」のチケットを買いました。平家琵琶の研究者薦田治子さんの解説で、薩摩琵琶、平家琵琶、中国琵琶、ウード、リュート等の演奏があります。文京シビック小ホールで11月25日17:…

太平記絵

思文閣古書資料目録善本特集『和の史』254号に「太平記図屏風」6曲1双が載っています(No22 ¥650万)。太平記絵はあまり多くなく、このように豪華なものは珍しい。24図が物語の順とは関係なく屏風に貼られているとのことなので、当初から屏風…

花火

文庫本の『火花』(又吉直樹)を読みました。話題が古いと思われそうですが、文学賞を獲った作品は発表時の雑誌で読むか、文庫化されてから読むかに決めているのです。森敦も野呂邦暢も雑誌で読んだのですが、この頃は手が空かないので、文庫化されてからや…

出版事情

歯医者の帰りに本屋へ入りました。ここ10年ばかりの間に本屋が2軒もつぶれ、20分ほど歩かないと行かれない場所になってしまいました(学生街なのに、というか、だからというか)。久しぶりに入ったら書架の配置が変わっていて、店の面積の7割は新書・…

31年目の女子会

31年前に卒業させたゼミ生が、丸の内で昼食会をやってくれました。非常勤で行っていた女子大で専任教員が内地留学し、その肩代わりとして教えたゼミです。専任は厳しいクリスチャンだったので、酒やわるい遊びを教えないように、ときつく釘を差されて引き…

桜桃

桜桃がスーパーで買えるようになるなんて、夢のようです。太宰治は父親の自分は酒場で飲んだくれ、首飾りのような桜桃を子供たちは見たこともない、と後ろめたさを逆バネにして短編を書きました。我が家では親子ともども太宰の愛読者だったので、6月には奮…

守宮

寝る前に北向きの窓を閉めたら網戸に妖しい影が映りました。守宮のようです。こんなコンクリート建ての環境でよく棲みついたと思いましたが、周辺には木造の古い家もあれば木立も多い所なので、不思議はありません。 改めてヤモリとイモリの違いをネットで調…

境界と女と絵巻

恋田知子さんの『異界へいざなう女―絵巻・奈良絵本をひもとく―』(平凡社)を読みました。境界を超えた異界への案内者として、また創作者、享受者、伝播者としての女性を中心に据えて、中世から近世への物語や絵巻の誕生と享受について楽しげに語った本です…

添景の花

TV番組の中に添景として出てくるフラワーアレンジメントを見るのも、けっこう楽しみです。NHKーETVの「日曜美術館」の背景には、豪華で番組内容に合った、大型の生け花が置かれています。BS4の「こころの歌」にも、センスのいい生け花が置かれま…

瑞風

豪華列車で行く旅が話題になっています。九州一周は未だしも、山陰本線一泊二日の旅には違和感を覚えました。あの辺は、路線バスや単線の列車を延々と乗り継ぐか、自転車・バイクなどで道を辿って行って初めて、土地柄のよさがわかるルートではないでしょう…

茶漬

ベーコンのお茶漬というものがあります。未だ働き盛りだった父が料亭の朝帰りに出されて覚えてきたものを、我が家でアレンジしました。ベーコンをかりかりになるまで焼き、油を落とします(今どきのコンビニで売っているベーコンは、薄くて油が少ないのでか…

國語國文特輯号

雑誌「國語國文」が3号合併で大谷雅夫さんの退職記念号を出しました(臨川書店)。全712頁、53本の論文が載っており、壮観です。これでも平成4年以降のOB全部ではないようで、まさに多士済々の京大ならでは、です。まえがき・あとがきがあっさりし…

流布本保元・平治物語

滝沢みかさんの「流布本『保元物語』『平治物語』における乱の認識と物語の改作」(「中世文学」62)を読みました。流布本保元物語は「秩序」を価値基準として「世を乱してはならない」と説き、流布本平治物語は「武士の振舞い方」を価値基準として「臣下…

清水の冠者

戸倉みづきさんの「国立国会図書館蔵『清水の冠者』攷―挿絵紙背を巡って-」(「汲古」71)を読みました。国会図書館蔵の奈良絵本「清水の冠者」中巻4オの紙背にある墨書は説経浄瑠璃「こ大ぶ」の一部であることを発見、このことから①「「こ大ぶ」の物語…

梔子の花

我が家の梔子が咲き始めました。20年前、宇都宮大学の同僚から頂いた枝6本を挿し木し、知人たちにも分けましたが、今は私の背丈より高くなり、ベランダの目隠しの高さに合わせて剪定しています。八重の純白の花が開いてゆく時は惚れ惚れします。青虫がつ…

史実と人物造型

清水由美子さんの「『保元物語』の流動―平基盛の造型をめぐってー」(「中央大学文学部紀要」 119号)を読みました。基盛は早世した清盛の次男で、語り本平家物語では殆ど抹殺された存在ですが、保元物語では、保元元年7月6日、崇徳院に参上しようとす…

版本

高木浩明さんの「本文は刊行者によって作られる―要法寺版『沙石集』を糸口にしてー」(「中世文学」62)を読みました。要法寺の日性によって版行された『沙石集』の古活字版2種を比較して、別版のように見える慶長10年版と無刊記版とが、じつは同版の匡…

桑の実

街路樹の下の植え込みになぜか1本だけ別種の木が枝を伸ばしていることがよくあります。たいていは桑の木(たまにそよごの木)です。桑畑が見かけられなくなった東京でも、鳥が落として生える種子は桑の実なのでしょうか。意外に桑の木(それも種類が何種か…

文学散歩

信濃から上京した友人姉弟に、近所の文学遺跡を御案内すると言ったのはよかったが、地元の近代文学関係の旧跡のことなど何も知りません。泥縄でイラストマップを買い、にわか勉強。地元の者は、あそこでしくじって叱られた、ここでは◯◯が手に入る、といった…

見果てぬ夢

三角洋一さんの遺稿集『中世文学の達成―和漢混淆文の成立を中心に-』(若草書房)を読んでいます。殆どが講演録や講義ノートをもとにしているので分かりやすく、硬い本ではありません。しかし、壮大な課題に、背伸びせず自前の言葉で取り組んでいく、いわば…

鴨東通信

きっと待たされるだろうと、ツンドクの山の中から抜き出した小冊子を持って銀行へ出かけました。拾い読みしているうちに視線が止まりました―「特定の理論体系に史料を〈埋め込む〉姿勢」、「あたらしい理論ないし巧妙なレトリックで古典テクスト理解に新機軸…

アメリカン・チェリー

黒っぽく熟したアメリカン・チェリーが店に出ています。一年中出回っているような感じですが、噛むとぷつっと音がしそうに果肉の充実した、旬の季節があることを知りました。子供の頃読んだ「トムおじさんの小屋」(アンクル・トムズ・ケビン)に、主人公の…

早歌

岡田三津子さん編著の『資料と注釈 早歌の継承と伝流―明空から坂阿・宗砌へ―』(三弥井書店)という本が出ました。早歌は宴曲ともいい、中世の武士たちに愛好された歌曲ですが、彼等にとっての「古典」の語句をびっしり鏤めた詞章で出来ており、その大半は1…

印度の壺

暑くなってきました。真夏にはベランダの照り返しで半身だけ日焼けします(机がベランダ側にあるので)。連日の暑さで夜になってもコンクリートが冷えなくなると、つらい。かつてインドへ行った時、素焼の壺に水を入れて売り歩く人がいました。素焼の肌から…

夢中の五感

子供の頃、夢は白黒で見る、ということが分かりませんでした。私の夢の中の世界は、通常の世界とまったく同じようだったからです。しかし「私の夢はカラーよ」と言ったら、「自慢してる!」と怒った大人がいたので、それ以来口に出せず、白黒の世界にとつぜ…

文字摺

買い物の帰りに、ビルの軒下の僅かな土に、もじずりの花が咲き始めているのを見つけました。本来、芝生など日当たりのよい平地に生える蘭科の草です。葉が芝とそっくりなので、手入れのいい庭園でも除草を免れ、季節になると、小さなピンクの噴水のようにい…

転法輪鈔

牧野淳司さんの「『転法輪鈔』解題」(「国立歴史民俗博物館研究報告」188)を読みました。国立歴史民俗博物館蔵(田中穣旧蔵)『転法輪鈔』の紹介及び「転法輪鈔」と呼ばれる資料群の中での位置づけ、著者澄憲の意識について述べています。ここ十数年に…

山椒と梅干

近所の公園で山椒の木を見つけ、小指ほどの枝を失敬しました。葉をこすると得も言われぬ芳香にうっとりさせられます。粉山椒は鰻には欠かせませんが、あの乾いた香りとは違って、もっと甘く艶めかしく、ねっとりした芳香です。食卓に飾るだけでは満足できず…

説林

伊藤伸江さんの「花園山考」(「説林」65号)という論文を読みました。説林(ぜいりん)はかつて渥美かをる先生が、その後森正人さん、黒田彰さんがよくお書きになった名門の紀要(愛知県立大学)です。伊藤さんの論文は、三河国岡崎の俳人鶴田卓池と刈谷…

梅シロップ

梅を漬けました。梅干しではなく梅シロップ(梅ジュース)とか梅酢と呼ばれている飲料です。もともと頂き物の蜂蜜2L用の空瓶が溜まったので、毎年2kgずつ漬けて近所に分けていたのですが、だんだん重い物を持てなくなり、小梅で漬けたり(ちゃんと出来…

夏仕様の表紙

ブログの表紙を夏仕様に替えました。ハワイの浜辺を描いたクレパス画で、表紙のサイズに合わせ、椰子の木が分かるよう中央部分を残してトリミングされていますが、原画はデュフィばりの速描で、点在する浜辺の人々をお見せできないのが残念です。 原画:松尾…

空蝉の家

親の家を売りました。50年前は南西に富士山、北には年に何度か筑波山が見え、護国寺の杜では時鳥の鳴くのが聞こえ、丸ノ内線の1番電車の出て行く響きが枕につたわってくる家でした。感無量というか脱力感というか、一種の喪失感が疲労となって被さってき…

5月が終わりました。新陳代謝が変わる季節だからか、5月は寝ても寝ても眠い月です。勤めている頃は殊に、新学期のどたばたがようやく一廻りし、演習など学生の顔ぶれを見て授業内容を調整する時期でもあり、春休みに用意した講義ノートも受講者の反応によ…

中古日本治乱記

今井正之助さんの「『理尽鈔』と『中古日本治乱記』『後太平記』ー『太平記秘伝理尽鈔』研究』補遺稿3ー」(「愛教大大学院国語研究」25)という論文を読みました。長くて記号が多くてしかも容易に漢字変換できない題名は、今井さん畢生の大著『『太平記…